・・・天主閣はその名の示すがごとく、天主教の渡来とともに、はるばる南蛮から輸入された西洋築城術の産物であるが、自分たちの祖先の驚くべき同化力は、ほとんど何人もこれに対してエキゾティックな興味を感じえないまでに、その屋根と壁とをことごとく日本化し去・・・ 芥川竜之介 「松江印象記」
・・・それから食膳の豊かすぎることを内儀さんに注意し、山に来たら山の産物が何よりも甘いのだから、明日からは必ず町で買物などはしないようにと言い聞かせた。内儀さんはほとほと気息づまるように見えた。 食事が済むと煙草を燻らす暇もなく、父は監督に帳・・・ 有島武郎 「親子」
・・・だが、こういうと馬鹿に難かしく面倒臭くなるが、畢竟は二葉亭の頭の隅のドコかに江戸ッ子特有の廃頽気分が潜在して、同じデカダンの産物であるこういう俗曲に共鳴したのであろう。これを日本国民が二千年来この生を味うて得た所のものと国民性に結びつけて難・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・一つは、太平時代の産物であり、装飾であり、娯楽であり、後者は、闘争的精神から生れた叫びである。純然行路を異にするのは、それがためであります。 階級闘争は必然であり、すべての人間的運動は、資本主義的文明の破壊からはじまる。もはや、それに疑・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・そして、糸で綴られていて、一見不器用だけれど、手工業時代の産物としての趣味があり、一種の芸術味が存している。中には絵などが入っていて、一層の情趣を添えるのもあって、まことに書物として玩賞に値するのであります。 和本は、虫がつき易いからと・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・ 童話は、空想的産物なるが故にそれだけ現実と共闘し、現実性を帯びなければならぬ筈なるに、これまでの作家は、童話はお伽噺であり、お伽噺は、所詮架空を材料とした作品なりとの理由をもって、現実から出来るだけ離脱しようとしたのであります。そして・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・ たゞ然し、最も妥当なる順序は、われ/\の現在生息しつゝある現代の文学書に親しみ、次第に過去時代の産物に遡ることを以て、効果多い方法と信ずる。たとえばルソーの『懺悔録』あたりから、近代精神の何ものであるかを知って、更にわれ/\の時代に近・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・十銭芸者もまたその頃出現したものだが、しかしこの方は他の十銭何々のように全国を風靡した流行の産物ではない。十銭芸者――彼女はわずかに大阪の今宮の片隅にだけその存在を知られたはかない流行外れの職業婦人である。今宮は貧民の街であり、ルンペンの巣・・・ 織田作之助 「世相」
・・・知識も、自由思想も、断じて自然の産物じゃない。自然は自由でもなく自然は知識の味方をするものでもないと言うんだ。知識は、自然と戦って自然を克服し、人為を建設する力だ。謂わば、人工の秩序への努力だ。だから、どうしても、秩序とは、反自然的な企画な・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・たべものにしても同じ事で、この地方の産物を、出来るだけおいしくたべる事に、独自の工夫をこらす。そうして皆で愉快に飲みかつ食う。そんな事じゃ、ないかしら。」「先生は、濁酒などお飲みになりますか。」「飲まぬ事もないが、そんなに、おいしい・・・ 太宰治 「母」
出典:青空文庫