・・・それがりっぱな王子だと分ったので、おむこさんとして何一つ申し分がありません。王女は大よろこびで夜があけるとすぐに王さまのところへいって、ゆうべのことをのこらずお話しました。 すると王さまは、たった一人の王女を、しらない人にくれるのがおし・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
・・・クロオジヤスは、申し分なき好人物にして、その条件に適っている如く見えた。ロオマ一ばんの貝殻蒐集家として知られていた。黒薔薇栽培にも一家言を持っていた。王位についてみても、かれには何だか居心地のわるい思いであった。恐縮であった。むやみ矢鱈に、・・・ 太宰治 「古典風」
・・・袖口はほころびて、毛糸が垂れさがって、まず申し分のない代物なのです。戸田さんは毎年、秋になると脚気が起って苦しむという事も小説で知っていましたので、私のベッドの毛布を一枚、風呂敷に包んで持って行く事に致しました。毛布で脚をくるんで仕事をなさ・・・ 太宰治 「恥」
・・・その文章駆使に当って、いま一そう、ひそかに厳酷なるところあったなら、さらに申し分なかったろうものを。わが儘という事 文学のためにわがままをするというのは、いいことだ。社会的には二十円三十円のわがまま、それをさえできず、い・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・役者も一人一人に見るとなかなかよく役々を務めて申し分ないもののようである。しかしこの映画全体を一つの芸術品として批評し、そうしてこれを「パリの屋根の下」や「大地」と比較し、そうしてまた、フランスならびにロシアに対する日本のものとして見ようと・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・米国製でなかなか丈夫に出来ていて、ちょっとくらい投り出しても壊れそうもない、またどんな強い風にも消えそうもない、実用的には申し分のなさそうな品である。それだけに、どうも座敷用または書卓用としては、あまりに殺風景なような気がした。 これは・・・ 寺田寅彦 「石油ランプ」
・・・ しかしまた、罹災者の側に云わせれば、また次のような申し分がある。「それほど分かっている事なら、何故津浪の前に間に合うように警告を与えてくれないのか。正確な時日に予報出来ないまでも、もうそろそろ危ないと思ったら、もう少し前にそう云ってく・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・これは女の申し分だ。三人が三様の解釈をしたが、三様共すこぶる解しにくい。「珊瑚の枝は海の底、薬を飲んで毒を吐く軽薄の児」と言いかけて吾に帰りたる髯が「それそれ。合奏より夢の続きが肝心じゃ。――画から抜けだした女の顔は……」とばかりで口ご・・・ 夏目漱石 「一夜」
・・・と云うといかにも人を馬鹿にしたような申し分であるが、私は諸君が笑うか怒るかでこの事件を二様に解釈できると思う。まず私の考では相手が諸君のごとき日本人なら笑うだろうと思う。もっとも実際やってみなければ分らない話だからどっちでも構わんようなもの・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・所の俗吏輩、いかでこれを許すべきや、成規に背くとて却下したるに、林家においてもこれに服せず、同家の用人と勘定所の俗吏と一場の争論となりて、ついに勘定奉行と大学頭と直談の大事件に及びたるときに、大学頭の申し分に、日本国中文字のことは拙者一人の・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
出典:青空文庫