・・・勿論お蓮は何度となく、変り易い世間の男心に、一切の原因を見出そうとした。が、男の来なくなった前後の事情を考えると、あながちそうばかりも、思われなかった。と云って何か男の方に、やむを得ない事情が起ったとしても、それも知らさずに別れるには、彼等・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・されたるブレトンの女は懸想せるブレトンの男に向って云う、君が恋、叶えんとならば、残りなく円卓の勇士を倒して、われを世に類いなき美しき女と名乗り給え、アーサーの養える名高き鷹を獲て吾許に送り届け給えと、男心得たりと腰に帯びたる長き剣に盟えば、・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・よきにつけあしきにつけ主動的であり、積極的である男心に添うて、娘としては親のために、嫁いでは良人のために、老いては子のために自分の悲喜を殺し、あきらめてゆかねばならない女心の悶えというものを、近松は色彩濃やかなさまざまのシチュエーションの中・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・女形の身ごなしで表現され得た女らしさにもられた女ごころというものも、つまりは古い男心の伝統が描き出したものであったとさえ云えるでしょう。 封建の女らしさは、やっと本当の女の自然な女らしさに生れ更ろうとしています。今日若い女性はその歴史の・・・ 宮本百合子 「自然に学べ」
・・・ものわかりよいということ、男心を理解しているということ、そのことがその女へ男の興味を呼びむかえる。率直に云って、今の日本の無差別な復古調は、女の中から女を或る意味で行燈のかげへ呼びもどす傾向をかもし出していると思う。昔ドイツのカイゼルが三つ・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・男の方と云うものは、写真一枚と手紙一本とで勝手に扱うことが出来ますの。男心と云うものはそうしたものでございますからね。Maupassant が notre cur と申した、その男心でございますね。(男の呆れて立ち竦・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
出典:青空文庫