・・・ところがまた、知ってる通り、あの一町場が、一方谷、一方覆被さった雑木林で、妙に真昼間も薄暗い、可厭な処じゃないか。」「名代な魔所でござります。」「何か知らんが。」 と両手で頤を扱くと、げっそり瘠せたような顔色で、「一ッきり、・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・強いて一町場ぐらいは前進出来ない事はない。が、そうすると、深山の小駅ですから、旅舎にも食料にも、乗客に対する設備が不足で、危険であるからとの事でありました。 元来――帰途にこの線をたよって東海道へ大廻りをしようとしたのは、……実は途中で・・・ 泉鏡花 「雪霊続記」
・・・押問答をしている内に、母はききつけて笑いながら、「民やは町場者だから、股引佩くのは極りが悪いかい。私はまたお前が柔かい手足へ、茨や薄で傷をつけるが可哀相だから、そう云ったんだが、いやだと云うならお前のすきにするがよいさ」 それで民子・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
出典:青空文庫