・・・ プラットフォームに立って送りに来た二十七の町方の女が頻りに世話を焼いた。「ああここにしようね――御免なさい」 前の座席には小官吏らしい男が一人いるだけであったが、三等の狭い一ツの席に肥った私、更に肥った婆さんが押し並ぶのには苦・・・ 宮本百合子 「一隅」
・・・ 薄い毛を未練らしく小さい丸髷にして、鼠色のメリンスの衿を、町方の女房のする様に沢山出して、ぬいた、お金の、年にそぐわない厭味たっぷりの姿を見るとすぐお君は、無理な微笑をして、 お帰りやすと云った。 一通り部屋の中を・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 町方から小半里の間かなりの傾斜を持って此村は高味にあるのでその一番池から水を引くと云う事は比較的費用も少しですみ、容易でも有ろうと云うのでその話はかなりの速力で進んで、男女の土方の「トロッコ」で散々囲りの若草はふみにじられ、池の周囲に・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫