・・・およそ二十枚くらい画いて来たのだが、仙之助氏には、その中でもこの小さい雪景色の画だけが、ちょっと気にいっていたので、他の二十枚程の画は、すぐに画商に手渡しても、その一枚だけは手許に残して、アトリエの壁に掛けて置いた。勝治は平気でそれを持ち出・・・ 太宰治 「花火」
・・・はでなサロン向の画商との所謂大家的取引とは何と違うでしょう。ゴッホは自分の弟を最も信頼する画商として持っていました。ルノアールは水ぽい絵描きですが、セザンヌに対しては厚い心を持っていた様です。この伝記とチャンポンに小説を読みましょう。実に小・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 私は絵として心を打たれるものを見出すことは出来なかったが、その絵の大小によって云わず語らずのうちに示された日本の大画家連の製作をも左右している世間の不景気の反映に興味を感じた。 画商との微妙な連関で自分の画の市価というものが定り、・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・これが資本主義社会での美術である。画商の存在の意義を考えればよく分る。 芸術における独自性と独得なテンペラメントと、商品としての独自性の必要とはブルジョア画家の画業のうちにかなしくまじりあってかれらをかりたてている。 近代の絵画の一・・・ 宮本百合子 「ディフォーメイションへの疑問」
・・・が、それと知った聖画商の番頭は、奇妙な反り鼻の小僧を呼びつけて、云いわたした。「お前は抜萃帖か何かを作っているそうだが、そんなことはやめちまわなくちゃいけない。いいか? そんなことをするのは探偵だけだ!」 一八八一年、ゴーリキイが十・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫