・・・それほど、私が閣下の御留意を請いたいと思う事実には不可思議な性質が加わっているのでございます。ですから、私は以上のお願いを敢て致しました。猶これから書く事も、あるいは冗漫の譏を免れないものかも知れません。しかし、これは一方では私の精神に異状・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・たまには、後輩のいうことにも留意して下さい。永野喜美代。」「先日は御手紙有難う。又、電報もいただいた。原稿は、どういうことにしますか。君の気がむいたようにするのが、一番いいと思う。〆切は二十五、六日頃までは待てるのです。小生ただいま居所・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・こんなにたくさんひとが居るのに、誰も僕を知っていない、僕に留意しない、そう思うと、――いや、そうさかんに合槌うたなくたってよい。はじめから君の気持ちで言っているのだ。けれどもいまの僕なら、そんなことぐらい平気だ。かえって快感だ。枕のしたを清・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・自分の身の上の変化には、いっさい留意していない様子だ。 私は妻と子を教室に置いて、私たちの家がどうなっているかを見とどけに出かけた。道の両側の家がまだ燃えているので、熱いやら、けむいやら、道を歩くのがひどく苦痛であったが、さまざまに道を・・・ 太宰治 「薄明」
・・・どうか、貴下は、御自身の容貌の醜さや、過去の汚行や、または文章の悪さ等に絶望なさらず、貴下独特の哀愁感を大事になさって、同時に健康に留意し、哲学や語学をいま少し勉強なさって、もっと思想を深めて下さい。貴下の哀愁感が、もし将来に於いて哲学的に・・・ 太宰治 「恥」
・・・被害の比較的研究を徹底的に遂行することになったらしいから、今回の苦い経験がむだになるような事は万に一つもあるまいと思うが、しかしこれは決して当局者だけに任すべき問題ではなく国民全体が日常めいめいに深く留意すべきことであろうと思われる。 ・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・稲ちゃんも大変スタイルに留意して試みている。矢田津世子が書き、たい子がかいている。俊子さんの第三部は『改造』二月に出るでしょう。俊子さんにしろ彌生子さんにしろ、女の作家が年齢に比べて若いということ、このことは、よしあしがあるが、一面には永久・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・歴史小説に於てより高い観点が要求されるとき制約のなかで最も留意すべきものはこの時間的及び空間的なものではあるまいか」と云われているのである。 同氏の「南海譚」を、作者のそのような歴史小説への意図をふくんで読み、三百年の昔朱印船にのって安・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・イタリーのソレントに住んでいながら、常にソヴェト同盟の達成に留意し、反ソヴェト運動に対して文筆をもって闘って来たゴーリキイが、実際のソヴェトを見て何と云い出すか、それによっては直ちに牙をむいて飛びかかろうと待ちかまえていたのであった。ゴーリ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・ 欧州の社会でも、男の子と女の子との精神の自覚の上にこれだけのちがいが在らせられているという事実に、私たちは深く留意する必要があると思う。この問題が、もし今日ジョルジ・サンドが「アンジアナ」の序文で希望し説明している方向に解決されている・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
出典:青空文庫