出典:青空文庫
・・・ 大阪の五つの代表的な闇市場――梅田、天六、鶴橋、難波、上六、の闇市場を歩いている人人の口から洩れる言葉は、異口同音にこの一言である。 思えば、きょうこの頃の日本人は、猫も杓子もおきまりの紋切型文句を言い、しかも、その紋切型しか言わ・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・ 彼等は異口同音に「天才」という言葉を口にした。すると、庄之助は何思ったか、急にけわしい表情になって、「天才……? 莫迦莫迦しい。天才じゃありません。努力です。訓練です。私はもう少しでこの子を殺してしまうところでした。それほど乱暴な・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・出来るだけ簡易平明にして、しかも主要な急所を洩れなく、また実に適切な例を使って説明するという行き方であり、また如何なる教科書とも類を異にしたオリジナルなものであったという事は同君の講義を聞いた高弟達の異口同音の証言によって明らかである。・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・』 若子さんと私が異口同音に斯う云って、云合せた様に其処を去ろうとしますと、先刻入口の処で見掛けた彼の可哀相な女の人が、其処に来合せたのでした。私は憎い人と可愛い人が、其処に集ってる様な気がして居ました。『あらッ、プラットフォームに・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・ 文学新聞が、多勢のソヴェト作家にあてて、反ソヴェト・カンパニアに対する感想を求めた時、みんなは殆んど異口同音に答えた。「われわれは今ペンをとって、世界のプロレタリア文学建設のために闘っている。だが、若し必要な時が来れば、階級のため・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・そういう場合は、無邪気で無責任なそして無智な観光者の異口同音さえ、その国の一般人の実際生活の上では案外の重圧と転化して上からかぶさって来ることもまれではないのである。 バックの中国についての感情は非常に深い。異国趣味なところは微塵もない・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・そして、異口同音に云った。これは社会的・学者的声望に欠くるところない佐佐木博士にしてはじめて可能なことであると。 先ず文献に関するこういう伝統的、社会的制約がある上に、これまでの国文学をやる人は、多く国文学の内にとじこもり、而も、非常に・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」