・・・ また私が、五年まえに盲腸を病んで腹膜へも膿がひろがり、手術が少しややこしく、その折に用いた薬品が癖になって、中毒症状を起してしまい、それをなおそうと思って、水上温泉に行き、二、三日は神に祈ってがまんをしたが、苦しさに堪え切れず、水上町・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・船橋に移ってからは町の医院に行き、自分の不眠と中毒症状を訴えて、その薬品を強要した。のちには、その気の弱い町医者に無理矢理、証明書を書かせて、町の薬屋から直接に薬品を購入した。気が附くと、私は陰惨な中毒患者になっていた。たちまち、金につまっ・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・詳しく言えば、風邪の症状を軽微なる程度において不断に享楽している。無理をしたくても出来ないという有難い状況に常住しているのである。そのために、あらゆる義理を欠き、あらゆる御無沙汰をして、寒さを逃げ廻っては、こそこそと一番大事なと思う仕事だけ・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・三月九日帰朝早々から風邪を引き、軽い肺気腫の兆候があるというので大事を取って休養していたが、一度快くなって、四月五日の工学大会に顔を出したが、その翌日の六日の早朝から急性肺炎の症状を発して療養効なく九日の夕方に永眠した。生前の勲功によって歿・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ こういう現象はもしやコーヒー中毒の症状ではないかと思ってみたことがある。しかし中毒であれば、飲まない時の精神機能が著しく減退して、飲んだ時だけようやく正常に復するのであろうが、現在の場合はそれほどのことでないらしい。やはりこの興奮剤の・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・ それは脳に徐々の出血があって、それがだんだんに蓄積して内圧を増す、それにつれて脈搏がはじめはだんだん昂進して百二十ほどに上がるが、それでも当人には自覚症状はない。それから脈搏がだんだん減少して行き、それが六十ぐらいに達したころに急に卒・・・ 寺田寅彦 「鎖骨」
・・・ような大規模のものが襲来すれば、東京から福岡に至るまでのあらゆる大小都市の重要な文化設備が一時に脅かされ、西半日本の神経系統と循環系統に相当ひどい故障が起こって有機体としての一国の生活機能に著しい麻痺症状を惹起する恐れがある。万一にも大都市・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・病気にもこんな風に自覚症状の所在とその原因の所在とがちがうのがあるらしい。 人間の心の病や、社会や国家の病にもこんなのがある。異常を「感じる」ところをいくら療治してもその異常は直らない。それを「感じさせる根原」の所在を突き止めなければ病・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・登るときは牛のようにのろい代りに、下り坂は奔馬のごとくスキーのごとく早いので、二度に一度は船暈のような脳貧血症状を起こしたものである。やっと熱海の宿に着いて暈の治りかけた頃にあの塩湯に入るとまたもう一遍軽い嘔気を催したように記憶している。・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・この中には種々多様の悪疫の症状が混合してしるされているそうである。この一節はいわゆる空気伝染をなす病気の実例として付け加えられたものであろう。 この疫病の記述によってルクレチウスの De Rerum Natura は終わっている。これは・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
出典:青空文庫