・・・彼の頬はきりりッと痙攣するように引きつッた。 黒島伝治 「窃む女」
・・・そして顔の筋肉が痙攣を起した。「ハイ。」 栗本はドキリとした。と、彼も頬がピク/\慄え引きつりだした。「今、ここに呼んだ者は、あした朝食後退院。いゝか!」 同じように、にこ/\しながら看護長は扉を押して次の病室へ出て行った。・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・パウルの手は瞬時に痙攣する、そうして静かに静かに力が抜けて行くのである。 音と光との二つの世界のいろいろの差違がいろいろの形で発声映画に利用される、そのもう一つの顕著な目標はリズムの問題に係わっている。律動は本来時間的のものであって時間・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・おかしいとき横隔膜が週期的痙攣をはじめる。これも何か、もっとずっと悪い影響を救うための安全弁の作用をしているに相違ない。それで医術がもっともっと進歩すると、精神のけがでもこれら天然の妙機を人工的に幇助することによって楽に治療できるようになる・・・ 寺田寅彦 「鎖骨」
・・・その最期の苦悶を表わす週期的の痙攣を見ていた時に、ふと近くに読んだある死刑囚の最後のさまが頭に浮かんで来た。 もう一つのねずみがどこへかくれたか姿を消してしまった。何も置いてない玄関の事だからどこにものがれるような穴はない。念のために長・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・それから二三日たって聞いてみると、ちょうどその晩に先生は激烈な腹部の痙攣を起こして大騒ぎをしたとの事であった。先生の目の周囲には青黒い輪が歴然と残っていた。自分はなんという理由なしに、この病気を起こさせた責任が自分らにあるような気がしてしか・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・地理教室の図書の管理をしていた、オットー・バシンという人も同じ仲間であったがこの人は聴講に身が入って来ると引切りなしに肩から腕を妙に大業に痙攣させるので、隣席に坐るとそれが気になって困った。あんまり勉強し過ぎて神経を痛めているのではないかと・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・ 笑いの現象を生理的に見ると、ある神経の刺激によって腹部のある筋肉が痙攣的に収縮して肺の中の空気が週期的に断続して呼び出されるという事である。息を呼出する作用にそれを食い止めようとする作用が交錯して起こるようである。ところがある心理学者・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・わたくしの心の臓は痙攣したように縮みました。ちょうどもうあなたの丈夫な、白いお手に握られてしまったようでございました。あの時の苦しさを思えば、今の夫に不実をせられたと思った時の苦しさはなんでもございません。わたくしの美しい夢はこのとき消えて・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・も、それに対する殆ど痙攣的だった保身的批判理論も、どちらも、十五年たったきょう顧みれば、日本の治安維持法の殺人的跳梁に影響された現象だった。当時の権力はまんなかに治安維持法の極端な殺人的操法をあらわに据えて、それで嚇し嚇し、一方では正直に勇・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
出典:青空文庫