・・・触れば益々痛むのだが、その痛さが齲歯が痛むように間断なくキリキリと腹をむしられるようで、耳鳴がする、頭が重い。両脚に負傷したことはこれで朧気ながら分ったが、さて合点の行かぬは、何故此儘にして置いたろう? 豈然とは思うが、もしヒョッと味方敗北・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・そして、病人は肝臓がはれ出して痛むと言います。これは医師が早くから気にしていたことで、その肝臓が痛み出しては、いよいよこれでお仕舞だと思いましたが、注射をしてからは少し痛みが楽に成りました。私は一度充分に眠るともっと楽になるだろうと思って、・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・脾腹が痛む、そして高い熱が出る。峻は腸チブスではないかと思った。枕元で兄が「医者さんを呼びに遣ろうかな」と言っている。「まあよろしいわな。かい虫かもしれませんで」そして峻にともつかず兄にともつかず「昨日あないに暑かったのに、歩い・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・と一人の男が言うと、一人「頭が痛むとか言っていたっけ」というや三人急に何か小さな声で囁き合ったが、同時にどっと笑い、一人が「ヨイショー」と叫けんで手を拍った。 面白ろうない事が至るところ、自分に着纏って来る。三人が行き過ぐるや自分は・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ 頭が割れるように痛むので寝たのだと聞いて磯は別に怒りもせず驚きもせず自分で燈を点け、薬罐が微温湯だから火鉢に炭を足し、水も汲みに行った。湯の沸騰るを待つ間は煙草をパクパク吹していたが「どう痛むんだ」 返事がないので、磯は丸く凸・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・敷島の日本の国に人二人在りとし思はば何か嘆かむ したがってその人のためにも、自分のためにも、それを傷む心の持って行き場がないからである。どうしても彼のために祈り、自分の傷を癒やしてくれる人間以上のものを求めたくなる。人間の愛・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・この日さのみ歩みしというにはあらねど、暑かりしこととていたく疲れたるに、腹さえいささか痛む心地すれば、酒も得飲まで睡りにつく。 八日、朝餉を終えて立出で、まず妙見尊の宮に詣ず。宮居は町の大通りを南へ行きて左手にあり。これぞというべきこと・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・然し、奥さん出張すると、靴は痛む洋服は切れる、Yシャツは汚れる……随分煩さいのです。殊に小人数ですから家族的気分でいいとかいいながら、それだけ競争もはげしく、ぼくなど御意見を伺わされに四六時中、ですから――それに商売の性質から客の接待、休日・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・腓のところどころがずきずきと痛む。普通の疼痛ではなく、ちょうどこむらが反った時のようである。 自然と身体をもがかずにはいられなくなった。綿のように疲れ果てた身でも、この圧迫にはかなわない。 無意識に輾転反側した。 故郷のことを思・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・ 小浅間への登りは思いのほか楽ではあったが、それでも中腹までひといきに登ったら呼吸が苦しくなり、妙に下腹が引きつって、おまけに前頭部が時々ずきずき痛むような気がしたので、しばらく道ばたに腰をおろして休息した。そうしてかくしのキャラメルを・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
出典:青空文庫