・・・この神経痛と思ったものが実は後に島木さんを殺した癌腫の痛みに外ならなかったのである。 二三箇月たった後、僕は土屋文明君から島木さんの訃を報じて貰った。それから又「改造」に載った斎藤さんの「赤彦終焉記」を読んだ。斎藤さんは島木さんの末期を・・・ 芥川竜之介 「島木赤彦氏」
・・・やっかいな癌腫はそういう反逆者の群れでできるものらしい。有機系とはなんの交渉もないものが繁殖し始めるとその有機系の調和が破壊され、その活力が阻害され結局死滅する、それと同時にその死滅を促成した反逆者の一群も死滅することは当然である。 国・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・これらの動物は、神経を切られたり、動脈へゴム管を挿されたり、病菌を植付けられたり、耳にコールタールを塗って癌腫の見本を作られたりする。 谷を距てた上野の動物園の仲間に比べるとここのは死刑囚であろう。 動物をいびり殺した学士が博士にな・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・そして、頭部の方からは酸敗した悪臭を放っていたし、肢部からは、癌腫の持つ特有の悪臭が放散されていた。こんな異様な臭気の中で人間の肺が耐え得るかどうか、と危ぶまれるほどであった。彼女は眼をパッチリと見開いていた。そして、その瞳は私を見ているよ・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・咽頭の癌腫のために急に亡くなったと云うことである。 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫