・・・今では発動機船に冷蔵庫と無電装置を載せて陸岸から千海里近い沖までも海の幸の領域を拡張して行った。 魚貝のみならずいろいろな海草が国民日常の食膳をにぎわす、これらは西洋人の夢想もしないようないろいろのビタミンを含有しているらしい。また海胆・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・運慶の仁王は意志の発動をあらわしている。しかしその体格は解剖には叶っておらんだろうと思います。あれを評して真を欠いてるから駄目だと云うのは、云う方が駄目です。ミレーの晩祈の図は一種の幽遠な情をあらわしている。そこに目がつけば、それでたくさん・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・要するにどの女でも若い盛りが過ぎて一度平静になった後に、もうほどなく老が襲って来そうだと思って、今のうちにもう一度若い感じを味ってみたいと企てる、ちょいとした浮気の発動が、この女の上にもめぐって来ているのだと認めたのである。あの手紙にはこの・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・活動と抑圧との実際は、ますます深められ、ひろめられる階級的連帯性の上に立って、屈伸きわまりなく発動する男女の結合を教えている。いわば連帯性の薄弱な愛情は永年にわたって持ちこしてゆけない。それほど、風雨はきついのである。あるときはちりぢりとな・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ 女の本来の心の発動というものも、歴史の中での女のありようと切りはなしてはいえないし、抽象的にいえないものだと思う。人間としての男の精神と感情との発現が実にさまざまの姿をとってゆくように、女の心の姿も実にさまざまであって、それでいい・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・が、残念なことにブルガーコフのソヴェト社会に向って発動する諷刺は、小ブルジョア的な尻尾をひっぱっている。 具体的にいうと、「赤紫の島」で、ブルガーコフは、一部の共産党員が考えている性急で単純な世界革命の希望を批判し、諷刺している。 ・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・この人生に明らかな知性と豊かで健全な人間的情熱の発動を熱望する一人の作家が、今日の現実を見る勉強としてやって見るつもりである。日本文学史全巻を担当される近藤忠義が、篤学、正確な視点をもたれる学者であることは、読者にとっての幸運であるし、同時・・・ 宮本百合子 「意味深き今日の日本文学の相貌を」
・・・ 一体、人なみより金銭の事にうとい栄蔵の目には、お金の実力より以上に金銭に対して発動する力の大きさ猛烈さがうつった。 あきれて口を噤んだ兄の前でお金は云いたいだけの事を並べた。 夜着をすっぽり被った中でお君は、妹につけつけ云われ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
発動機の工合がわるくて、台所へ水が出なくなった。父が、寝室へ入って老人らしい鳥打帽をかぶり、外へ出て行った。暖炉に火が燃え、鳩時計は細長い松ぼっくりのような分銅をきしませつつ時を刻んでいる。露台の硝子越しに見える松の並木、・・・ 宮本百合子 「海浜一日」
・・・芝浦から日覆いをかけた発動和船。海上にポツリと浮いたお台場、青草、太陽に照っている休息所の小さなテント。此方ではカフェー・パリスと赤旗がひらひらしている。市民の遊覧、ルウソーの絵の感じであった。陽気で愛らし。 溺死人の黒い頭、肩。人間の・・・ 宮本百合子 「狐の姐さん」
出典:青空文庫