・・・私の聞いたすべての音楽は私のセロに発想の上に新しい道を開いた。私は名手から学ぶと同様に下手からも学んだ。それはどうしてはいけないかを学んだのである。私は私の生徒からも多くを学んだ。」 スペシアリストのほんとうの意義、その心得を説き尽くし・・・ 寺田寅彦 「人の言葉――自分の言葉」
・・・ こんにちの日本の社会では、現代人の発想として、さまざまの具体的な試みが活溌に実行されてこそ結構な時期である。まして、すべての新劇団が、一九五〇年は五・六月ごろから著しく財政困難に陥って、熱心で技量のある俳優たちが無給で奮闘している現在・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・それほど久しい間婦人の、人間としての社会的発想は、抑えられつづけて来たのだ。抑えられているなかで、自分の文学の境地をまもりつづけて来た婦人たちの作品は、しかしながら、あまり現代の歴史のいきづきから遠くはなれて、それとしての完成を目ざして来た・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・しかし、すでに、それだけでも栖方の発想には天才の資格があった。二十一歳の青年で、零の置きどころに意識をさし入れたということは、あらゆる既成の観念に疑問を抱いた証拠であった。おそらく、彼を認めるものはいなかろうと梶は思った。「通ることがあ・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫