・・・いが、それにしてもこの現象を決定する因子はその瞬間の気象要素のみではなくて、遠くさかのぼれば長い冬の間から初春へかけて、一見活動の中止しているように見える植物の内部に行なわれていた変化の積算したものが発現するものと考えられる。 そこへ行・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・しかし葉という物質が枝という物質から脱落する際にはともかくも一種の物理学的の現象が発現している事も確実である。このことはわれわれにいろいろな問題を暗示し、またいろいろの実験的研究を示唆する。もしも植物学者と物理学者と共同して研究することがで・・・ 寺田寅彦 「藤の実」
・・・ それでも賞翫はできますが、それを賞翫するに、局部の内容を賞翫するのと、その内容を発現するために用うる役者の芸を賞翫するのと、ほとんど内容を離れた、内容の発現には比較的効能のない役者の芸を賞翫するのと三つあるようですね。 こうなって・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・ 開化は人間活力の発現の経路である。と私はこう云いたい。私ばかりじゃない、あなた方だってそういうでしょう。もっともそう云ったところで別に書物に書いてある訳でも何でもない、私がそう言いたいまでの事であるがその代り珍らしくも何ともない。がこ・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・活動せる人間精神の発現は版行で押したようには行かぬ。過去の文学は未来の文学を生む。生まれたものは同じ訳には行かぬ。同じ訳に行かぬものを、同じ法則で品隲せんとするのは舟を刻んで剣を求むるの類である。過去を綜合して得たる法則は批評家の参考で、批・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・けれども私が文学を職業とするのは、人のためにするすなわち己を捨てて世間の御機嫌を取り得た結果として職業としていると見るよりは、己のためにする結果すなわち自然なる芸術的心術の発現の結果が偶然人のためになって、人の気に入っただけの報酬が物質的に・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・ちょうど音楽の譜で、声を譜の中に押込めて、声自身がいかに自由に発現しても、その型に背かないで行雲流水と同じく極めて自然に流れると一般に、我々も一種の型を社会に与えて、その型を社会の人に則らしめて、無理がなく行くものか、あるいはここで大いに考・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・人間の歴史は今日の不満足を次日物足りるように改造し次日の不平をまたその翌日柔らげて、今日までつづいて来たのだから、一方から云えばまさしくこれ理想発現の経路に過ぎんのであります。いやしくも理想を排斥しては自己の生活を否定するのと同様の矛盾に陥・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・吾人の心裏に往来する喜怒哀楽は、それ自身において、吾人の意識の大部分を構成するのみならず、その発現を客観的にして、これをいわゆる物において認めた時にもまた大に吾人の情を刺激するものであります。けれどもこの刺激は前に述べた条件に基いて、ある具・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・開化とは人間の energy の発現の径路で、この活力が二つの異った方向に延びて行って入り乱れて出来たので、その一つは活力節約の移動といって energy を節約せんとする吾人の努力、他の一つは活力を消耗せんとする趣向、即ち consump・・・ 夏目漱石 「無題」
出典:青空文庫