・・・雨のため傷められたに相異ないと、長雨のただ一つの功徳に農夫らのいい合った昆虫も、すさまじい勢で発生した。甘藍のまわりにはえぞしろちょうが夥しく飛び廻った。大豆にはくちかきむしの成虫がうざうざするほど集まった。麦類には黒穂の、馬鈴薯にはべと病・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ブルジョアジーが亡滅すれば、その所産なるすべての制度および機関はおのずから亡滅して、新たなる制度および機関が発生するであろうとは、レニン自身が主張するところで、実際において、歴史的事実としては、かくのごとき経路が今行なわれつつあるようだ。無・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・ 二 むろん思想上の事は、かならずしも特殊の接触、特殊の機会によってのみ発生するものではない。我々青年は誰しもそのある時期において徴兵検査のために非常な危惧を感じている。またすべての青年の権利たる教育がその一部分――・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・こゝに童話文学の発生がある所以だ。この殆んど神秘的な説明し難い感情こそ、土と人との連結でもあるのだ。 どこの村落にせよ、まだ、あまり都会的害毒に侵されざるかぎり、また、彼等が土を耕している人間であるかぎり、自然発生的に、その村に結ばれた・・・ 小川未明 「彼等流浪す」
・・・ すべての空想が、その華麗な花と咲くためには、豊饒の現実を温床としなければならぬごとく、現実に発生しない童話は、すでに生気を失ったものです。過去のお伽噺が、その当時の生活、経験に調和して生れたものであるなら、新しい童話は、今日の生活から・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・自然の条件に従って、発生し、醗酵するものゝみが、最も創意に富んだ形を未来に決定するのである。それ故に、機械主義的な構成に、また強権主義的な指導に、真の創造はあり得ないであろう。 人間は、意識的に、形態を定めることはできる。しかし、詩を作・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・ハートゥレイによれば道徳的情操は、他の高尚な諸感情とともに、感覚に伴う快、不快の念から連想作用によって発生したものである。彼は同情も、仁愛も利己的な快、不快の感から導き出した。初めは快、不快な結果を好悪する心から徳、不徳を好悪したのだが、広・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ そのためには具体的の共同体というものが、父母から発生し、大家族を通しての、血族的、言的共生を契機とし、共同防敵によって統一され、師長による文化伝統の教育と、共存同胞による衣食の共同自給にまつものである事情、すなわち父母と、師長と、国土・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・それから銀行と産業とが結びついて、金融資本が発生し、金融寡頭政治ができてくる。 資本家の間に於ける独占は、始めは国内の市場をそれぞれに分割する。が、国内の市場は、資本主義の下では、外国市場と密接な関係を持っていて、そこで、それらは、一定・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・僕にいわせると「発生の機は螺線的運動にあり」というのサ。なんでも物の発生するというのは君も知ッている通り「力」の所為サ。その力で逐いやらるるものは則ち先にいうた原則で必らず螺旋的に動くのサ。ソコデこの螺線的運動は力のある限りは続くのだ。何故・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
出典:青空文庫