・・・ 和服を着た肥った老人が登壇した。何か書類のようなものを鷲握みにして読みはじめたと思ったらすぐ終った。右報告、と捨てぜりふのように、さも苦々しく言い切って壇を下りると、またがやがやと騒ぐ声が一しきりした。 それから、入れ代って色々の・・・ 寺田寅彦 「議会の印象」
・・・しかし、新聞記事の多数の読者には、どうしても、当人が登壇して滔々と論じたかのごとく、また黄河の水を大きなバケツか何かで、どんどん日本海へくみ込むかと思わせるようになっているのである。そのほうがなるほどたしかにおもしろいには相違ないのである。・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ことにただいま牧君の紹介で漱石君の演説は迂余曲折の妙があるとか何とかいう広告めいた賛辞をちょうだいした後に出て同君の吹聴通りをやろうとするとあたかも迂余曲折の妙を極めるための芸当を御覧に入れるために登壇したようなもので、いやしくもその妙を極・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・指名にしたがって米内首相が登壇した。悠たりとしたモーニング・コートの姿である。その恰幅と潮風に鍛えられた喉にふさわしい低い幅のある荘重な音声で草稿にしたがって読まれる演説は、森として場内の隅々まで響いた。どことなしお国の訛が入る。 つづ・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
出典:青空文庫