・・・その夕日の中を、今しがた白丁が五六人、騒々しく笑い興じながら、通りすぎたが、影はまだ往来に残っている。……「じゃそれでいよいよけりがついたと云う訳だね。」「所が」翁は大仰に首を振って、「その知人の家に居りますと、急に往来の人通りがは・・・ 芥川竜之介 「運」
・・・ 時に、宮奴の装した白丁の下男が一人、露店の飴屋が張りそうな、渋の大傘を畳んで肩にかついだのが、法壇の根に顕れた。――これは怪しからず、天津乙女の威厳と、場面の神聖を害って、どうやら華魁の道中じみたし、雨乞にはちと行過ぎたもののようだっ・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・塵埃が積る時分にゃあ掘出し気のある半可通が、時代のついてるところが有り難えなんてえんで買って行くか知れねえ、ハハハ。白丁奴軽くなったナ。「ほんとに人を馬鹿にしてるね。わたしを何だとおもっておいでのだエ、こっちは馬鹿なら馬鹿なりに気を揉ん・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・あの松の下に蘭があって、その横にサフランがあって、その後ろに石があって、その横に白丁があって、すこし置いて椿があって、その横に大きな木犀があって、その横に祠があって、祠の後ろにゴサン竹という竹があって、その竹はいつもおばアさんの杖になるので・・・ 正岡子規 「初夢」
出典:青空文庫