・・・ 社の格子が颯と開くと、白兎が一羽、太鼓を、抱くようにして、腹をゆすって笑いながら、撥音を低く、かすめて打った。 河童の片手が、ひょいと上って、また、ひょいと上って、ひょこひょこと足で拍子を取る。 見返りたまい、「三人を堪忍・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・一群の鶏も、数匹の白兎も、ダリヤの根方で舌を出している赤犬に至るまで。 しかし向かいの百姓家はそれにひきかえなんとなしに陰気臭い。それは東京へ出て苦学していたその家の二男が最近骨になって帰って来たからである。その青年は新聞配達夫をしてい・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・ 廊下の東詰の流しの上の明かり窓から病院の動物小屋が見える。白兎やモルモットらしいものが檻の中に動くのが見える。これらの動物は、神経を切られたり、動脈へゴム管を挿されたり、病菌を植付けられたり、耳にコールタールを塗って癌腫の見本を作られ・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
出典:青空文庫