・・・を風靡した「波動力学」のごときもその最初の骨組みはフランスの一貴族学者ド・ブローリーがすっかり組み立ててしまった。その「俳諧」の中に含まれた「さび」や「しおり」を白日の明るみに引きずり出してすみからすみまで注釈し敷衍することは曲斎的なるドイ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・明治の初年日本の人々が皆感激の高調に上って、解脱又解脱、狂気のごとく自己を擲ったごとく、我々の世界もいつか王者その冠を投出し、富豪その金庫を投出し、戦士その剣を投出し、智愚強弱一切の差別を忘れて、青天白日の下に抱擁握手抃舞する刹那は来ぬであ・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ぐさまこれを監督官に申出る、と監督官は降参人の今日の凹み加減充分とや思いけん、もう帰ろうじゃないかと云う、すなわち乗れざる自転車と手を携えて帰る、どうでしたと婆さんの問に敗余の意気をもらすらく車嘶いて白日暮れ耳鳴って秋気来るヘン 忘月忘・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・心の奥に何者かほのめいて消え難き前世の名残の如きを、白日の下に引き出して明ら様に見極むるはこの盾の力である。いずくより吹くとも知らぬ業障の風の、隙多き胸に洩れて目に見えぬ波の、立ちては崩れ、崩れては立つを浪なき昔、風吹かぬ昔に返すはこの盾の・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・そこには多くの知り合いがいた。白日の下には、彼を知るものは悉くが、敵であった。が、帰って行けば、「ふん、そいつはまずかった」と云って呉れるがいた。 だんだんは大きく、大胆になって行った。 汽車は滑かに、速に辷った。気持よく食堂車は揺・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・在るのは、数々の人間行動の基準の一つとして、両性関係をどう見てゆくか、という白日的な問題の提出方法である。それは、過去において、貞操が扱われたような信仰的なものではなくて、もっと客観的な探求の対象として、人間生活理解の上の課題としてあらわれ・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・何かのはずみに間違えて平民の社会に天降った侯爵令嬢良子が、つつがなく再び天上したからには、総てはあの時ぎりの白日夢とし、東郷侯爵家というもののまわりは又〔七字伏字〕閉ざされたかの如き感じを世間が持つよう、細心な努力が払われている。 湯浅・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・そして、この奸策を白日のもとに明かにしたのは、もちろんポベドノスツェフではなく、足をすくわれた後、立ち上ったロシアのマルキシストたちであった。 私は日本プロレタリア文学史の中でも、こんにちのさまざまな現象が、やはりそのような視角から明ら・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
出典:青空文庫