・・・ 十八で日に焼けた頬はうす黒いけれ共自然のまんまに育った純な心持をのこりなく表して居る、両方の眼は澄んで大きな瞳をかこんだ白眼は都会に育った人の様な青味を帯びては居なかった。 何の苦労と云う事も知らずに育った仙二は折々は都会のにぎや・・・ 宮本百合子 「グースベリーの熟れる頃」
・・・男の児は両方の白眼を凝らすように気をいれて何か考えている風だったが、やがて、オリーヴ色のスウェタアから出ている小さな頭をふって、ちがうよ、と云った。ちがうじゃないか、ヤーホーじちちゃんが支那の兵隊さん、コツンしたんだよ。と云った。その児の母・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・ 今野が立膝をしたなり腹立たしげに、白眼をはっきりさせて云った。「ふむ!」 成程、こういう風な人の動かしかたを、万事につけてやるものであるか。自分は強くそう思った。何も説明せず、先はどうなるのか見当がつかないように小切って命令し・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・西条エリは、白眼のきわだった目のまわりに暗い暈のかかったような、素肌に袷を着たような姿を撮され、私はその写真からもこの若い女優が今度の事に関りあったことに対しまだきまらない世間の人気や批判を人知れず気にしているらしい窶れを感じ、哀れに思った・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・ 篤は千世子の濃い青味がかった白眼や髪の間から一寸のぞいて居る耳朶を見ながら誘われる様な気持にうす笑いをした。 笑いながら濃い長い髪が額へ落ちかかって来るのを平手で撫で上げ撫で上げしながら窓の外にしげる楓の若葉越しにせわしく動い・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ 彼女の白眼は海の様に青く、頬の両傍から鼻にかけて妙にうるんできめの荒く赤がった皮膚がたるんで居るのは彼女の頭の工合の悪い時に限って表われる事なのです。 食堂に来て見ると母は珍らしくテーブルの傍に腰かけて忘れ物を仕た様な顔で頬杖を突・・・ 宮本百合子 「二月七日」
・・・話につれて閃く白眼。その顔のすべての曲線が勁く、緊張していた。博い引例や、自在な諷刺で雄弁であり、折々非常に無邪気に破顔すると大きい口元はまきあがり、鼻柱もキューと弓なりに張っている。ひろ子は自分が美術家であったら、この、独特な、がっちりと・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ 田舎に育った娘は、しずかなチラット白眼をつかってかんだぐるようなことが多く、都に育った娘は、人なつこい中にかならず幾分かのかざった、いつわったところが多いと思われる。 仕事をしなくてはいけない、仕事をしない人間は生き甲・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・付け焼き刃に白眼をくるる者は虚栄の仮面を脱がねばならぬ、高き地にあってすべてを洞察する時、虚栄は実に笑うに堪えぬ悪戯である。美を装い艶を競うを命とする女、カラーの高さに経営惨憺たる男、吾人は面に唾したい、食を粗にしてフェザーショールを買う人・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫