・・・うに、うしろ手に縛りあげると、細引を持ち出すのを、巡査が叱りましたが、叱られるとなお吼り立って、たちまち、裁判所、村役場、派出所も村会も一所にして、姦通の告訴をすると、のぼせ上がるので、どこへもやらぬ監禁同様という趣で、ひとまず檀那寺まで引・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・父親は子供達の悪さをなげきながら、安子に学校や稽古事をやめさせて二階へ監禁し、一歩も外出させず、仲よしのお仙がたずねて行っても親戚へ行っていると言って会わせなかった。 安子は鉄ちゃんには唇を盗まれただけで、父親が言うように女の大事なもの・・・ 織田作之助 「妖婦」
・・・ついには家も断絶せられ、その身も監禁せられる。 たしか、そのような筋書であったと覚えているが、その殿様を僕は忘れる事が出来なかった。ときどき思い出しては、溜息をついたものだ。 けれども、このごろ、気味の悪い疑念が、ふいと起って、誇張・・・ 太宰治 「水仙」
・・・例えば毒殺の嫌疑を受けた十六人の女中が一室に監禁され、明日残らず拷問すると威される、そうして一同新調の絹のかたびらを着せられて幽囚の一夜を過すことになる。そうして翌朝になって銘々の絹帷子を調べ「少しも皺のよらざる女一人有」りそれを下手人と睨・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・敵は、私を二年も三年も監禁する理由を発見し得なかったので、今度は体は自由でも仕事のやってゆけぬようにしようとする。 検束されていた間、それから六月二十五日に出て来て今日になるまでに私の学んだことはただ一つです。それは文化活動をふくむプロ・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・ ゴーリキーにしろ、意味なく帝政時代に室内監禁をくったのではない。ウラジーミル大公の食堂に今日一皿二十カペイキのサラダがトマトと胡瓜の色鮮やかに並び、シベリアの奥で苔の採集を仕事としている背中の丸い白い髯の小学者が妻と木彫のテーブルにつ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 手にとって見ると、ローザ・ルクセンブルグがヨーロッパ大戦中三年四ヵ月の間監禁生活を強いられていた、その期間にカール・リープクネヒトの妻にあてて書いた手紙が集録されたものであった。 ところどころ、それとなく拾い読みをしては私は激しい・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・すると、日頃ツルゲーネフに目をつけていた官憲はその文章が不穏であるという咎で、ツルゲーネフを、ペテルブルグ要塞監獄へいれた。監禁は僅か一ヵ月であった。が、体の弱いツルゲーネフはすっかり打撃をうけ、しかも居住制限によってその後何年か自分の領地・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・有名な精神病院の監禁室の一部が丁度此方向きになっているので、見まいとしても私の眼に、その鉄棒入りの小窓が写る。 空地があるから、一町ばかりある距離を踰えて、斑犬の遠吠えが小窓の中へ聞えるらしい。おや、と気づいて耳を澄していると、大抵一分・・・ 宮本百合子 「吠える」
・・・ロシアの政府は其をとがめて、田舎の一つの町に室内監禁しました。その時書かれたのが「どん底」です。そして、世界じゅうがこの戯曲によって、ロシアの民衆の苦しみの真の姿を見たのでした。「どん底」で、出口も分らず渦まいている民衆の力は、段々まとまっ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイについて」
出典:青空文庫