・・・ 日本女は強情そうな目付で御者をじっと見、はっきり一言一言区切って云った。 ――お前さん、ロシア人だろう? 馬車にのっかってる人間が寄ると云ったら、寄り道にきまってることが分らないの? 暫く黙って御者は、やや弱く。 ――いや・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
・・・みんな一種緊張した何かを期待しているような目付で数人ずつ連れだち、ゾロゾロ歩いているが、どこにも組織されたデモンストレーションの列は見当らない。広場に近づくにつれ、意外のものがめにとまった。まるで戒厳令だ。通りに面している店と云う店はことご・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
・・・といいましたら、奥様が妙に苦々しい笑いようを為って、急に改まって、きっぱりと「マアぼうは、そんなことを決していうのじゃありませんよ、坊はやっぱりそのままがわたしには幾ら好のか知れぬ、坊のその嬉しそうな目付、そのまじめな口元、ひとつも変えたい・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫