・・・他人の妾に目星をつけて何になると皮肉をいうものもあった。 何しろ競馬は非常な景気だった。勝負がつく度に揚る喝采の声は乾いた空気を伝わって、人々を家の内にじっとさしては置かなかった。 仁右衛門はその頃博奕に耽っていた。始めの中はわざと・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・それからまた犯人と目星をつけた女の居所を捜すのに電話番号簿を片端からしらみつぶしに呼び出しをかける場面などもやはり一つの思いつきである。 こうした趣向の新しさを競う結果は時にいろいろな無理を生じる。たとえば大地震で大混乱を生じている同じ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ 現在はまだ所謂有名になっていないでも、これはと目星をつけた男の画家の絵を、コレクションとして買っている人は決して無くはなかろう。あとで価が出るからと買うのだが、価が出るということには、現在の社会のくみ立てにしたがえば、それだけその画家・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・歩道には、市内各署の特高のスパイが右往左往して日頃目星をつけている人物を監視したり今にもひっぱりそうな示威をしたりしている。おとなしく立っている女ばかり数人の私たちでさえ、いやな気がしてじっと一つところにはいられなかったほど、胡散くさい背広・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
帝銀事件として、帝国銀行椎名町支店におこった全行員から小使一家までの毒殺事件は、意味のわからないほど惨酷な毒殺方法で、すべての人の心を寒くした。犯人の目星がついた、つかないと、推理小説家まで動員されてのさわぎのうちに、日は・・・ 宮本百合子 「目をあいて見る」
出典:青空文庫