・・・ただ、魚類に至っては、金魚も目高も決して食わぬ。 最も得意なのは、も一つ茸で、名も知らぬ、可恐しい、故郷の峰谷の、蓬々しい名の無い菌も、皮づつみの餡ころ餅ぼたぼたと覆すがごとく、袂に襟に溢れさして、山野の珍味に厭かせたまえる殿様が、これ・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・お嬢様がお一方、お米さんが附きましてはちょいちょいこの池の緋鯉や目高に麩を遣りにいらっしゃいますが、ここらの者はみんな姫様々々と申しますよ。 奥様のお顔も存じております、私がついお米と馴染になりましたので、お邸の前を通りますれば折節お台・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・そして吉田はあるときその娘が毎日食後に目高を五匹宛嚥んでいるという話をきいたときは「どうしてまたそんなものを」という気持がしてにわかにその娘を心にとめるようになったのだが、しかしそれは吉田にとってまだまだ遠い他人事の気持なのであった。 ・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・水槽につけた紙札に魚の名と値段が書いてある。目高ぐらいの魚が一尾二十五円もするのである。金持ちらしい客は「フム、これは安いねえ」「安いんだねえ」と繰り返しながらしきりに感心している。若い店員は心持ち顔を長くしたようであったが、「はあ、……比・・・ 寺田寅彦 「試験管」
出典:青空文庫