・・・ と答えたきりなんにも言わず、母の言いつけに盲従する外はなかった。「僕は学校へ往ってしまえばそれでよいけど、民さんは跡でどうなるだろうか」 不図そう思って、そっと民子の方を見ると、お増が枝豆をあさってる後に、民子はうつむいて膝の・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・ ところが武の母は石井翁の細君の妹だけに、この無為主義をあやぶみ、姉は盲従してこそおれ、女はやっぱり女、石井さんの隠居仕事で二十五円の上に十円ふえるならどのくらい楽と思うか知れないと、武をして石井翁を説き落とさすつもりでいるのである。・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・ドレフュー事件の際に於ける仏国軍人の盲従は、未だ以って彼等の道心欠乏を証するに足らずと。果して然る乎。 幸徳秋水 「ドレフュー大疑獄とエミール・ゾーラ」
・・・少なくも責任の半分以上は彼らのオーソリティに盲従した後進の学徒に帰せなければなるまい。近ごろ相対原理の発見に際してまたまたニュートンが引き合いに出され、彼の絶対論がしばしば俎の上に載せられている。これは当然の事としても、それがためにニュート・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・しかし手首の柔らかいということは無節操でもなければ卑屈な盲従でもない。自と他とが一つの有機体に結合することによってその結合に可能な最大の効率を上げ、それによって同時に自他二つながらの個性を発揚することでなければならない。 孔子や釈迦や耶・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・幽霊に関しては法学士は文学士に盲従しなければならぬと思う。「遠い距離において、ある人の脳の細胞と、他の人の細胞が感じて一種の化学的変化を起すと……」「僕は法学士だから、そんな事を聞いても分らん。要するにそう云う事は理論上あり得るんだ・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・ましてその頃は西洋人のいう事だと云えば何でもかでも盲従して威張ったものです。だからむやみに片仮名を並べて人に吹聴して得意がった男が比々皆是なりと云いたいくらいごろごろしていました。他の悪口ではありません。こういう私が現にそれだったのです。た・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・単に夫なればとて訳けも分らぬ無法の事を下知せられて之に盲従するは妻たる者の道に非ず。況して其夫が立腹癇癪などを起して乱暴するときに於てをや。妻も一処に怒りて争うは宜しからず、一時発作の病と視做し一時これを慰めて後に大に戒しむるは止むを得ざる・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・我輩の飽くまでも勧告奨励する所にして、女徳の根本、唯一の本領なりと雖も、其柔順とは言語挙動の柔順にして、卑屈盲従の意味に非ず。大節に臨んでは父母の命を拒み夫の所業に争うことある可し。例えば家計云々の為めに娘を苦界に沈めんとし、又は利益の為め・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・には、すべての女学生はおかっぱとさえなったが、一般がそうなればその女学校の先生たちも決して驚いたり、叱ったりはしない。つまり自分として一定の見識があるわけでないから、「その時の事情」に盲従するばかりであった。私の場合は、受持の女教師がへつら・・・ 宮本百合子 「女の学校」
出典:青空文庫