・・・だが、彼はベッドに入ると直ぐに眠った。小さな鼾さえかいて。 安岡は、ふだん臆病そうに見える深谷が、グウグウ眠るのに腹を立てながら、十一時にもなれば眠りに陥ることができた。 セコチャンが溺死して、一週間目の晩であった。安岡はガサガサと・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・ お金は客の前へ出ると、なんだか一寸坐わっても直ぐに又立たなくてはならないと云うような、落ち着かない坐わりようをする。それが随分長く坐わっている時でもそうである。そしてその客の親疎によって、「あなた大層お見限りで」とか、「どうなすったの・・・ 森鴎外 「心中」
・・・ 己は新聞を取り上げて読み始めた。脚長は退屈そうな顔をして、安楽椅子に掛けている。 直ぐに己の目に附いた「パアシイ族の血腥き争闘」という標題の記事は、かなり客観的に書いたものであった。 * * ・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
出典:青空文庫