・・・しかも稚拙な直訳である。だいいち作者は、ゲエテをもクライストをもただ型としての概念でだけ了解しているようである。作者は、ファウストの一頁も、ペンテズイレエアの一幕も、おそらくは、読んだことがないのではあるまいか。失礼。ことにこの小説の末尾に・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・と云ったような言葉が使ってある。直訳なら「平和化」で、先ず「平定」とでも訳する所であろうが、とにかくフランス人らしい巧妙な措辞である。「誅戮」「討伐」「征伐」「征討」などと、武張ったどこかの国のジャーナリストなら書きたい所であろう。それを「・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ ジャーナリズムの直訳は日々主義であり、その日その日主義である。けさ起こった事件を昼過ぎまでにできるだけ正確に詳細に報告しようという注文もここから出て来る。この注文は本来はなはだしく無理な注文である。たとえば一つの殺人事件があったとする・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・たぶん、外国の読本の直訳に相違ないのであるが、今考えてみるとその時代としては恐ろしい危険思想を包有した文句であった。先生が一句ずつ読んで聞かせると、生徒はすぐ声をそろえてそれを繰り返したものであるが、意味などはどうでもよかったようである。そ・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・抑も子宮の字は洋語の Uterusに当り、相互直訳の文字にして、西洋諸国に於ては医師社会に限りて之を用い、診察治療の必要に迫れば極内々に患者又は其家人に之を告ぐるのみ。医事に関する要談の外に、西洋国人の口よりユーテルスの語を聞かんと欲するも・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・この間に立ちて形式の簡単なる俳句はかえって和歌よりも複雑なる意匠を現わさんとして漢語を借り来たり佶屈なる直訳的句法をさえ用いたりしも、そは一時の現象たるにとどまり、古池の句はついに俳句の本尊として崇拝せらるるに至れり。古池の句は足引の山鳥の・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・プロレタリア文学の理論、創作方法の問題などが、若干直訳的であったことや、例えば弁証法的創作方法という提案の中には、世界観と創作方法との二つの問題が混同し同時的に提出されていたために、創作の現実にあたって作家を或る困惑に導いたような事実は、当・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・英語に直訳すれば、まるで何だかよそよそしい、卑屈な響になって仕舞うが、日本の女性が良人を、「宅の主人」と呼ぶのは、決して、奴僕が雇主を指して云うような感情を持ってはいない。丁度、英語を喋る国の女が、自分の良人を第三者に対して話す時には、ミス・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 先頃、エイ・エス・エム・ハッチンスンと云う作家が“This Freedom”と云う長篇小説を発表しました。直訳すれば「この自由」と云いますか。 この作家の名は、その一つ前に書いた「若し冬が来るなら」と云う題の作品で俄に知られるよう・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
出典:青空文庫