・・・従来の慣用語を以ていえば、主観客観の相互限定から起るのである。而してそれは我々の自己が、自己自身によって自己自身を限定するものの自己表現の過程として、真実在の自己表現の一立脚地となるということにほかならない。故に我々の自己は真実在の自己限定・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・その深遠な理由は、思想が人間性の苦悩の底へ、無限に深くもぐりこんで抜けないほどに根を持つて居るのと、多岐多様の複雑した命題が、至るところで相互に矛盾し、争闘し、容易に統一への理解を把握することができないこと等に関聯して居る。ニイチェほどに、・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・人と人との交際ということは、所詮相互の自己抑制と、利害の妥協関係の上に成立する。ところで僕のような我がまま者には、自己を抑制することが出来ない上に、利害交換の妥協ということが嫌いなので、結局ひとりで孤独に居る外はないのである。ショーペンハウ・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・劃時代的な二つの階級間の闘争が、全市から全日本の相互の階級を総動員して相対峙していたのだ。それは国際階級戦の一つの見本であった。「連れて行ってくれる! ね、父ちゃん。坊やを連れて行って呉れるの。公園に行こうね。お猿さんを見に行こうね。ね・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・左れば広き世の中には随分悪婦人も少なからず、其挙動を見聞して厭う可き者あれども、男性女性相互に比較したらんには、人非人は必ず男子の方に多数なる可し。此辺より見れば我輩は女大学よりも寧ろ男大学の必要を感ずる者なり。 婦人に七去と言う離縁の・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・これを要するに、学問上の事は一切学者の集会たる学事会に任し、学校の監督報告等の事は文部省に任して、いわば学事と俗事と相互に分離し、また相互に依頼して、はじめて事の全面に美をいたすべきなり。 たとえば海陸軍においても、軍艦に乗りて海上に戦・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ただこの時代が文学美術全般の勃興を成したるは文運の隆盛を促すべき大勢に駆られたるものにして、その大勢なるものはかえって各種の文学美術が相互に影響したる結果も多かりけん。 蕪村の交わりし俳人は太祇、蓼太、暁台らにしてそのうち暁台は蕪村に擬・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・婦人の生活の朝夕におこる大きい波、小さい波、それは悉く相互関係をもって男子の生活の岸もうつ大波小波である現実が、理解されて来る。女はどうも髪が長くて、智慧が短いと辛辣めかして云うならば、その言葉は、社会の封建性という壁に反響して、忽ち男は智・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・物は人を動かすが、人が又物をいかに強力にうごかすかという人類の能動力その相互関係において有機的に芸術を見、且つ生もうとする段階に到達しているのである。徳永氏が傑れたものとしてあげている『中央公論』六月号のスペイン戦線からの作家たちのルポルタ・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・として心と心とを触れ合わせるというような状態になると、個性はその特殊を厳密に保持しながら相互に融け合い、争闘は我の偏狭を脱して人性進化のために愛の光の内に行われる。偉大なる者への屈従は歓喜を以て迎えられ、弱小を征服することは大いなる愛の力を・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
出典:青空文庫