・・・ 二人が風呂から上がると内儀さんが食膳を運んで、監督は相伴なしで話し相手をするために部屋の入口にかしこまった。 父は風呂で火照った顔を双手でなで上げながら、大きく気息を吐き出した。内儀さんは座にたえないほどぎごちない思いをしているら・・・ 有島武郎 「親子」
・・・そりゃ兄さんが一人で二階で飲んでる分にはちっともかまいませんが、私もお相伴をして、毎日飲んでるとなっては、帳場の手前にしてもよくありませんからね」 これが惣治の最も怖れたことであった。「……そりゃそうとも、僕も今度はまったく禁酒のつ・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・杜氏もその相伴をした。 汚れた帆前垂れは、空樽に投げかけたまゝ一週間ほど放ってあったが、間もなく、杜氏が炊事場の婆さんに洗濯さして自分のものにしてしまった。 黒島伝治 「砂糖泥棒」
・・・れは頂かぬそれでは困ると世間のミエが推っつやっつのあげくしからば今一夕と呑むが願いの同伴の男は七つのものを八つまでは灘へうちこむ五斗兵衛が末胤酔えば三郎づれが鉄砲の音ぐらいにはびくりともせぬ強者そのお相伴の御免蒙りたいは万々なれどどうぞ御近・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・みなさん私のロココ料理をたべて、私の腕前をほめてくれて、私はわびしいやら、腹立たしいやら、泣きたい気持なのだけれど、それでも、努めて、嬉しそうな顔をして見せて、やがて私も御相伴して一緒にごはんを食べたのであるが、今井田さんの奥さんの、しつこ・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・ 探険家シャックルトンがベルリンへ来たときペンクの私邸に招かれ、その時自分も御相伴に呼ばれて行った。見知らぬ令夫人を卓に導く役を云い付かって当惑した。その席でペンクは、本日某無名氏よりシャックルトン氏の探険費として何万マルクとかの寄附が・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・ 主人は饂飩だけ相伴して、無頓着らしい顔に笑を湛えながら、二人の酒を飲むのを見ている。話はしめやかである。ただ富田の笑う声がおりおり全体の調子を破って高くなる。この辺は旭町の遊廓が近いので、三味や太鼓の音もするが、よほど鈍く微かになって・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫