・・・ まともに相剋に立ち入っては一生を賭しても解決はむずかしいのだからと、今日の文化がもっている凹みの一つである女らしさの観念をこちらから把んで、そこで女らしさの取引きを行って処世的にのしてゆくという態度も今日の女の生きる打算のなかには目立・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・その相剋の強烈さで。その暗さの深さで。自分が感じている明るくなさや、ひとも自分も信じがたさを、刺戟し、身ぶるいさせる自虐的な快感でひきつけられているのだと思う。 ここで、再びわたしたちは、文学にふれてゆく機会が偶然であるという事実と・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・婚、家庭生活について日本の社会通念が枠づけている息ぐるしい家族制度のしがらみ、娘・妻としての女が、人間らしいひろやかさと発展をもって生きたい女性にとって、どんなに窒息的なものであるかを、夫婦の性格的な相剋の姿とともに描き出そうとしている。作・・・ 宮本百合子 「あとがき(『伸子』)」
・・・結婚にからむ親たちとの相剋も非条理に思えた。二十歳の女の人生をその習慣や偏見のために封鎖しがちな中流的環境から脱出するつもりで行った結婚から、伸子は再度の脱出をしなければならなかった。世間のしきたりから云えば十分にわがままに暮しているはずの・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・でも、女にとって職業か家庭かという苦しい疑問を常に抱かせて来たさまざまの相剋は、決して社会的な解決を得ていない。そのことのうちには、給料のこともふくまっていて、働いている婦人としての感情はお互に単純であり得ない。社会の凸凹が各個人の感情の凸・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・ 友情といわれるごくひろい気持の上で経験されているこのような相剋は、女性がますます社会的な活動にひき出されて来ている今日、若い世代の生活感情にとってあるいは時代的な不幸としての性格をもつものではないかと思う。実生活の困難がますます加わっ・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・ 武家時代の社会で君臣という動かしがたい社会の枠の中に、このようになまなまと恐ろしい人間性格の相剋が現実すること、そして、その相剋する力がその枠をとりのぞく作用としては在り得ないで、その枠内で揉み合って、枠内のしきたりによって悲劇の終末・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・然し、既に今日の現実の中では、わが個性の確立、発展の欲求を自覚すると同時に、実際問題としてそれを制約している事情との日常的な相剋があり、社会的事情の改善なしに個性の発揚は不可能であるという客観的事実を示している思想は、空な一流派の流行とかそ・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・イギリスの炭礦夫の息子であったローレンスの悲劇は、戦争をふくめて、あらゆる現代社会の矛盾、相剋への抗議を、性の自然的な権利の回復という一点に集中して表現したところにあった。 D・H・ローレンスは、彼を知っているすべての人が語っているとお・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・この人間性の覚醒と行動の抑制との相剋があらゆる方面にあらわれていたルネッサンス時代に、インドにおける植民地の拡大と、その結果、より速い資本主義社会への足なみをもったイギリスで、シェクスピアの豊富な才能が、思いをこめてじっと動かず微笑するレオ・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
出典:青空文庫