・・・ 現代の悲劇というより、むしろ正劇は、個々の性格間の格闘というよりも拡大されて、人間理性の発展にあらわれてきた歴史と歴史のギャップ、相剋という普遍性をもつたたかいの記録に進んで来ている。日本の現代文学は、世界の現実としてのこれら日本の現・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・その席では、二十世紀のこの時期に動いている世界社会の苦悩、相剋、発展へのつよい意欲とその実験にかかわる文学の、原理的な諸問題について究明される態度は全く消された。印象批評と放談のうちに、ジャーナリズムと読者とに対するある種のデモンストレーシ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 私は私であっていいのだという確信を貫いて生きるためには、現実の中で何と苦しい相剋や矛盾を耐えてゆかなければならないだろう。 パール・バックの優れた作品の一つに「母の肖像」というのがある。この母の時代の姿であらわされているアメリカの・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・非常に天分ある大作家でも、矛盾相剋するブルジョア階級の世界観の環内に止っているところにあっては、文学的練磨がつみ重ねられ、才能が流暢に物語り出すにつれ益々その作家に現れる矛盾は、その作家自身にとって克服し難い妥協なく顕著なものとなって来る。・・・ 宮本百合子 「作家研究ノート」
・・・男対女の相剋を、漱石は「兄」などの中にあれほど執拗に追究していながら、問題は常に女という一般の性に向っての疑いとして出されていて、結婚の習慣のありよう、家庭という観念の内容については、不思議なほどふれられていない。男女の相剋を自我の相剋とし・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・民法が改正されただけで生活感情の伝統の相剋はなくなると思うものはない。日本の財閥が外見上解体されたとして、どうして徒弟制が絶滅したといえよう。バイブルに、男女は差別ある賃銀を、と書いてはなかろうが、カソリック教徒である日本の文相は、それらを・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・と云っているのであるが、作家としての彼が一度、この内なる自己と外部との葛藤、相剋をとりあげるとなると、それは全く社会的背景から抽象された心理分析、フロイド風の或はドストイェフスキイ風の意識下のものの探求となり、作品に現れる人物が本質の窮極に・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・そして、真の新世代はこんにち、社会的矛盾の相剋の最悪の事情において闘いながら、その争いにともなって自身の文学を創ってゆかなければならない。そこには、先ず勤労人として生活しながら、文学を愛好する面では消費的で、従来の文学青年的であるというよう・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・したがって人間性の解放とその自由の要求には、過程として当然さまざまの社会的相剋、封建性とのさまざまのたたかいをさけがたいものとしていたし、そのたたかいを終極の勝利に導くためには、一見、人間性の解放とは逆のように見える集団の規則、献身、克己を・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・は、近代における自我の問題として人間交渉の姿に敏感・執拗・潔癖であったこの作家の苦悩に真正面からとり組んだ作品であるばかりでなく、両性の相剋の苦しみの面をも絶頂的に扱われた小説と思える。この作品が、漱石の作家としての生涯の特に孤立感の痛切で・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
出典:青空文庫