・・・この兄が後に伊藤八兵衛となり、弟が椿岳となったので、川越の実家は二番目の子が相続して今でもなお連綿としておるそうだ。 椿岳の兄が伊藤の養子婿となったはどういう縁故であったか知らないが、伊藤の屋号をやはり伊勢屋といったので推すと、あるいは・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・されば御家相続の子無くして、御内、外様の面、色諫め申しける。」なるほどこういう状態では、当人は宜いが、周囲の者は畏れたろう。その冷い、しゃちこばった顔付が見えるようだ。 で、諸大名ら人の執成しで、将軍義澄の叔母の縁づいている太政大臣九条・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・彼女は嫁いで行った小山の家の祖母さんの死を見送り、旦那と自分の間に出来た小山の相続人でお新から言えば唯一人の兄にあたる実子の死を見送り、二年前には旦那の死をも見送った。彼女の周囲にあった親しい人達は、一人減り、二人減り、長年小山に出入してお・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・貴方は家の相続人ですわ。お国には阿母さんが唯ッた一人、兄さんを楽しみにして待ってらッしゃるでしょう。仙台は仙台で、三歳になる子まである嫂さんがあるでしょう。それだのに、兄さんが万一、』『ええ、聞く耳が無い。』と、其の兄さんはつと体を退い・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・或は男子は分家して一戸の主人となることあるゆえ女子に異なりと言わんかなれども、女子ばかり多く生れたる家にては、其内の一人を家に置き之に壻養子して本家を相続せしめ、其外の姉妹にも同様壻養子して家を分つこと世間に其例甚だ多し。左れば子に対して親・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・たとえば世に、商売工業の議論あり、物産製作の議論あり、華士族処分の議論あり、家産相続法の議論あり、宗旨の得失を論ずる者あり、教育の是非を議する者あり、学校設立の説を述る者あり、文字改革の議を発する者あり。 いずれも皆、国の文明のために重・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・とるに、ようやく実用を重んずるの風を成したらば、官途の営業もまた容易なるべく、幸にして資本ある者は、新たに一事業を起して独立活動を試みんべく、あるいは地方の故郷に帰りて、ただちに父兄を助け、または家を相続して、たしかに遺産を保護し、また増殖・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・例えば家の相続男子に嫁を貰うか、又は娘に相続の養子する場合にも、新旧両夫婦は一家に同居せずして、其一組は近隣なり又は屋敷中の別戸なり、又或は家計の許さゞることあらば同一の家屋中にても一切の世帯を別々にして、詰る所は新旧両夫婦相触るゝの点を少・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・あるいは他の不幸にして男児なき家あれば、養子の所望を待ちてその家を相続し、はじめて一家の主人たるべし。次三男出身の血路は、ただ養子の一方のみなれども、男児なき家の数は少なくして、次三男出生の数は多く、需要供給その平均を得ずして、つねに父兄の・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ さなきだに人類の情慾は自ずから禁じ難きものなるに、ここに幸いにも子孫相続云々の一主義あることなれば、この義を拡めていかなる事か行わるべからざらんや。妻を離別するも可なり、妾を畜うも可なり、一妾にして足らざれば二妾も可なり、二妾三妾随時・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫