・・・留置場の女のところは一杯で、もう入れられないと、看守がことわった。「何だって、今夜はァあとからあとからつっちェくるんだ」と看守が不満そうに抗議した。留置場は一杯になっていた。小林多喜二のところへ来た人たちで、少くとも女の室は満員となっていた・・・ 宮本百合子 「今日の生命」
・・・としての生活をして来て、軍規の野蛮さ、絶対命令に対するはかない抵抗としての兵士たちの仮病を見破りつづけて来た人々。死ぬものを「一丁あがり」と看守がいうような牢獄生活をつづけて来た人々。そういう不幸な痕跡をもった人々がきょうの情勢を主観的にせ・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・本郷の帝国大学のある本富士警察の留置場、学校の多い西神田署の留置場などは、東京の警察の乱暴な留置場の中でも、最も看守の粗暴なところであった。帝大の学生そのほか諸学校学生で、社会科学の研究をしているくらいの青年たちと、条理において論判したら、・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・ 面会に行ったとき、面会所の窓の切り穴から看守につきそわれ編笠を足もとにおいてあらわれる宮本の現実の姿は、頭をクルクル刈りにして着ぶくれ、背が低くなったように見えるのである。 鶯 一月末のある夜明けがた起きて仕事をし・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・被告宮本ただ一人、傍聴者は弁護士と妻と看守ばかりという法廷であった。戦争に気を奪われ左翼の存在を忘れさせられた人々は殺人の公判には傍聴に入っても治安維持法の公判廷には姿を見せなくなった。治安維持法の意味を知り、公判に関心をもつ人々は危険をお・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・「看守が来ると、おーい、年とって目が見えんからお前見とくろっちゃ、毎日虱とっとった」 ×××老人は、皺だらけの顔で言葉少にその時のことを話し、愉快そうにハッハッと笑った。 まわりの手入れの行届いた畑には、薯、菜、大根、黍、陸稲な・・・ 宮本百合子 「飛行機の下の村」
・・・刑務所の医者は、思想犯の患者を診るときには、その前にきまって附添の看守に向って念を押した。「どうだ、これは転向しているかね」と。だから重吉は、自分の努力で病勢を納めて来ているものの、本当には拘置所で患うようになった結核がどの程度のものなのか・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・本富士署は、東大をひかえて、左翼の理論を追求する学生をいつも多勢留置しなければならないために、留置場の看守たちは、ひどく風変りな独自性を身につけていた。ひっぱって、ぶちこむ学生たちと理くつでいい合えば看守に分があろうわけはない。東大の学生そ・・・ 宮本百合子 「本郷の名物」
出典:青空文庫