・・・また老人が長々病気のとき、其看病に実の子女と養子嫁と孰れかと言えば、骨肉の実子に勝る者はなかる可し。即ち親子の真面目を現わす所にして、其間に心置なく遠慮なきが故なり。其遠慮なきは即ち親愛の情の濃なるが故なり。其愛情は不言の間に存して天下の親・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・を耳にするのみ、果して其意味を解釈するも事に益することなきは実際に明なる所にして、例えば和文和歌を講じて頗る巧なりと称する女学史流が、却て身辺の大事を忘却して自身の病に医を択ぶの法を知らず、老人小児を看病して其方法を誤り、甚しきは手相家相九・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・殊にこの頃では伊藤、河東、高浜その他の諸子を煩わして一日替りに看病に来てもらうような始末になったので、病人の苦しいことは今更いうまでもないが、看病人の苦しさは一通りでないということを想像すればするほど気の毒で堪らなくなる。勿論看病のしかたは・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・ 夜、お前さんのわきに坐って看病してやったとき。二人が補助金だけで暮して、お前さんはあけても暮れても本にばっかりかじりついている。私はミシンで働いて、お前さんに暖いもの喰べさせていた時分、私たちは、じゃ、どんな言葉で喋ったっていうんだろう?・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・二人は昼夜ぶっ通しの看病をした。不思議に命をとりとめた「モール」が、病むイエニーの部屋へ初めて行った朝の美しい光景を、エレナーは感動をもって記録している。「二人は一緒に若返りました――彼女は恋する乙女に、彼は恋する若者に、一緒に人生に歩・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・おうちの方々は実に母さん孝行で、峰子さんなどは、自分の家庭とお母さんの看病と、おどろくばかり献身された。長男の鉄夫さんが花嫁をもらわれ、勝彦さんが出征され、松の茂った丘や玉川へ向う眺望のよい病床も多端であった。 その前ごろから、孝子夫人・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・階上で怪我した若者の看病をするそのまめまめしさ、動作の日本女らしさ、澄子は気がつかず地で行っている。階下では小泥棒共が、騒ぎ立てる。麻雀は彼等を籠絡して、可愛い眉太男を守らなければならない。そこで二階の踊場へ姿を現すと、愕然として、麻雀は自・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・そのことを口に出しても云い、心のこりなく看病するように、とも云い、自分としては或る覚悟をもきめていたのであった。 母の臨終の床でも私はあまり泣かなかったし、それからいろいろの儀式のうちに礼装をした父が白いハンカチーフをとり出して洟をかむ・・・ 宮本百合子 「母」
・・・孫の報告をききつけなかった。「だからさ、そりゃ私みのるさんの覚悟が悪いって云ったのさ。義理にもせよ阿母さんだと思えばこそ、善ちゃんが自分の稼ぎで寒いめもさせないんだからね。孫の看病位お前……」「おばあちゃん!」 うめは、祖母の黒・・・ 宮本百合子 「街」
・・・そしてその夜は、明方まで、勿体ないほど大事にかけて看病して下すったんです。しかし僕はあなたが聞いて下さるからッて、好気になって、際限もなく話しをしていたら、退屈なさるでしょうから、いい加減にしますが、モ一ツ切り話しましょう。僕はこの時の事が・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫