・・・ と真っ先に叫んだのがかの酒癖水兵である。かれは狂気のごとくその大杯を振りまわした。この時自分の口を衝いて出た叫声は、 天皇陛下万歳! 国木田独歩 「遺言」
・・・ 地震ぞと叫ぶ声室の一隅より起こるや江川と呼ぶ少年真っ先に闥を排して駆けいでぬ。壁の落つる音ものすごく玉突き場の方にて起これり。ためらいいし人々一斉に駆けいでたり。室に残りしは二郎とわれと岡村のみ、岡村はわが手を堅く握りて立ち二郎は卓の・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・ 一番槍の功名を拙者が仕る、進軍だ進軍だ』とわめいて真っ先に飛び出した。僕もすぐその後に続いた。あだかも従卒のように。 爪先あがりの小径を斜めに、山の尾を横ぎって登ると、登りつめたところがつの字崎の背の一部になっていて左右が海である、そ・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・平静に思うと、真の愛と勇気とを以て人生に向かう時、私共の心から、つかれたもの、おとろえたものの存在が決してわすれられることはなくとも、意識の、真っ先に立って行く手を遮りはしないと思います。病人は実にあわれで見る目も苦るしい。けれども私共自身・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・ ロシアに入って真っ先に印象されたのは第一万事が珍しいということ。それに革命前及後のロシアというものは、文学で幾分知っていたし、自分に縁のないところへ来たとは思わなかった。丁度モスクワに着いた晩は雪が降っていた。橇の上から見ると・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・さて真っ先に玄関に進んでみると、正面の板戸が細目にあけてある。数馬がその戸に手をかけようとすると、島徳右衛門が押し隔てて、詞せわしくささやいた。「お待ちなさりませ。殿は今日の総大将じゃ。それがしがお先をいたします」 徳右衛門は戸をが・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫