・・・就中、芸術の真価が外国人の批評で確定される場合の多いは啻に日本の錦絵ばかりではないのだ。 二十年前までは椿岳の旧廬たる梵雲庵の画房の戸棚の隅には椿岳の遺作が薦縄搦げとなっていた。余り沢山あるので椽の下に投り込まれていたものもあった。寒月・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・綜合雑誌の中に混っては埋れて個性的な感じを与へなかったのが、独立して、真価を発するのを見れば、本来から、其種に別があり、雑誌向のものがあるような気がします。 ジャナリズムの舞台として、雑誌は新聞に近き性質のものです。机上に置いて玩味し、・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・の首位と二位を占めていたから、この二人が坂田に負けると、名人位の鼎の軽重が問われる。それに東京棋師の面目も賭けられている、負けられぬ対局であったが、坂田にとっても十六年の沈黙の意味と「坂田将棋」の真価を世に問う、いわば坂田の生涯を賭けた一生・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・誰もこの霊物の真価を知るまい。これは、なんとしても黄村先生に教えてあげなければならぬ、とあの談話筆記をしている時には、あんなに先生のお話の内容を冷笑し、主題の山椒魚なる動物にもてんで無関心、声をふるわせて語る先生のお顔を薄気味わるがったりな・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・殿様が、御自分の腕前に確乎不動の自信を持っていたならば、なんの異変も起らず、すべてが平和であったのかも知れぬが、古来、天才は自分の真価を知ること甚だうといものだそうである。自分の力が信じられぬ。そこに天才の煩悶と、深い祈りがあるのであろうが・・・ 太宰治 「水仙」
・・・あまり身近かにいると、かえって真価がわからぬものである。気を附けなければならぬ。 日本有数という形容は、そのまま世界有数という実相なのだから、自重しなければならぬ。 太宰治 「世界的」
・・・男子の真価は、武術に在り! (一座色をなせり。逃仕度強くなくちゃいけない。柔道五段、剣道七段、あるいは弓術でも、からて術でも、銃剣術でも、何でもよいが、二段か三段くらいでは、まだ心細い。すくなくとも、五段以上でなければいけない。愚かな意見と・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ず、これからも女性に隷属する事なく、男性と女性の融和を図り、以て文化日本の建設を立派に成功せしむる大人物の筈である事、だからあなたも、元気を出して、日本に帰ったら、二人の兄弟と力を合せて、女神の子たる真価を発揮するように心掛けるべきです、と・・・ 太宰治 「女神」
・・・お互いが、相手の真価を発見して行くためにも、次々の危機に打ち勝って、別離せずに結婚をし直し、進まなければならぬ。王子と、ラプンツェルも、此の五年後あるいは十年後に、またもや結婚をし直す事があるかも知れぬが、互いの一筋の信頼と尊敬を、もはや失・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 科学上の知識の真価を知るには科学だけを知ったのでは不充分である事はもちろんである。外国へ出てみなければ祖国の事がわからないように、あらゆる非科学ことに形而上学のようなものと対照し、また認識論というような鏡に照らして批評的に見た上でなけ・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
出典:青空文庫