・・・私は霊感を信じない。知性の職人。懐疑の名人。わざと下手くそに書いてみたりわざと面白くなく書いてみたり、神を恐れぬよるべなき子。判り切っているほど判っているのだ。ああ、ここから見おろすと、みんなおろかで薄汚い。」などと賑やかなことであるが、お・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ 新鮮な階級的な知性と実践的な生の脈うちとで鳴っていた「敗北の文学」「過渡期の道標」の調子は、そのメロディーを失って熱いテムポにかわった。情感へのアッピールの調子から理性への説得にうつった。 この時期の評論が、どのように当時の世界革・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・かぞえつくせない青春がきずつけられ、殺戮された。知性もうちひしがれた。民主の夜あけがきたとき、すぐその理性の足で立って、嬉々と行進しはじめられなかったほど日本の知性は、うちひしがれていたのであった。 日本にエリカ・マンはありえなかった。・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・民主的文化確立の道は、この社会的基盤の分析という段階から既に文学そのものの創造によって、人民の哲学そのものの確立によって、新しい知性と美の流露によって、知的に心情的に、「しかし」の谷間まであふれてゆかなければならない段階にきていると信じます・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・軍国主義の餌じきとされて来ていた日本人民の人間性・知性が重圧をとりのぞかれてむら立つように声をあげはじめたとき、自我の確立とか自意識とかいうことが言われはじめたとき、そういう角度を手がかりとして自分の人生を見なおしはじめた若い人たちのうちで・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・この人生に明らかな知性と豊かで健全な人間的情熱の発動を熱望する一人の作家が、今日の現実を見る勉強としてやって見るつもりである。日本文学史全巻を担当される近藤忠義が、篤学、正確な視点をもたれる学者であることは、読者にとっての幸運であるし、同時・・・ 宮本百合子 「意味深き今日の日本文学の相貌を」
・・・の世界で、それぞれの女性たちは、その優れた美しさや知性や熱情にかかわらず、これまでどおり、社会関係の中では男に対する女としての角度からよろこび、悲しみ、波瀾にもまれている。彼女たちはジャン・クリストフの感性から働きかけるだけの存在であった。・・・ 宮本百合子 「彼女たち・そしてわたしたち」
・・・むしろ、こういう作品との関係でその作家の生きつつある現実の生きようを見きわめようとするところに、血と肉のある現代人の知性が発揮されるのであろうと思う。〔一九三九年六月〕 宮本百合子 「観念性と抒情性」
・・・では、当時文壇や一般知識人の間に問題とされていた思想の諸課題、例えばヒューマニズムの問題、知性の問題、科学性の問題などをそのまま職場へ携帯して行って、そこでの現実の見聞、情景、插話の中から、携帯して行った観念を背負わせるにふさわしいと思われ・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・明治から大正初頭にかけて、日本の知性の確立を欲することの熱烈であった作家の一人夏目漱石も、イギリスへ行ってからはとくに個々人の見識、人格としてそれをはっきり主張した。しかし、支配権力の歴史的な性格が、国の文化と知性との基盤にあって、どう作用・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
出典:青空文庫