・・・りの感慨をもらし、以ておかみさんの心の動揺を企図したものだが、しかし、そのいつわりの縁談はそれ以上、具体化する事も無く、そのうちに君は、卒業と同時に仙台の部隊に入営して、岡野がいなくては、いかに大石、智略にたけたりとも、もはや菊屋から酒を引・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・痩せ細った総身の智略を振絞って防備の陣を張らなくてはならない。防備の陣を張るにも先立つものは矢張金である。金を獲るには僕の身としては書くのが一番の捷径であろう。恥も糞もあるものかと思いさだめて、一気呵成に事件の顛末を、まずここまで書いて見た・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・ 東北の伊達一族は、その胆力と智略とで、徳川から特別の関心をもたれた。聰明な伊達の家長たちは、その危険を十分に洞察した。伊達政宗がわざと大酔して空寝入りをし、自分の大刀に錆の出ていることを盗見させた逸話は有名である。伊達模様という一つの・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
出典:青空文庫