・・・ところが、その翻訳書の数が多くないのに、善い訳は少ないので、翁の新しい医学の上の智識には頗る不十分な処がある。 防腐外科なんぞは、翁は分っている積りでも、実際本当には分からなかった。丁寧に消毒した手を有合の手拭で拭くような事が、いつまで・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・このようなことは、禅機に達することだとは思わないが、カルビン派のように、知識で信仰にはいろうとしなければならぬ近代作家の生活においては、孝道氏の考え方は迷いを退けるには何よりの近道ではないかと思う。 他人のことは私は知らないが自分一人で・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・ 先生の講義が右のごとく我々を動かしたのは、先生が単に美術品についての事実的知識を伝えるにとどまらずして、さらにそれらの美術品を見る視点を我々に与え、美術品の味わい方を我々に伝えたがためであったと思う。この点において先生は実に非凡な才能・・・ 和辻哲郎 「岡倉先生の思い出」
出典:青空文庫