・・・たとえば彼の作品中、絵画的効果を収むべき描写は、屡、破綻を来しているようである。こう云う傾向の存する限り、微細な効果の享楽家には如何なる彼の傑作と雖も、十分の満足を与えないであろう。 ショオとゴオルスウアアズイとを比較した場合、ショオは・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・もし寸毫の虚偽をも加えず、我我の友人知己に対する我我の本心を吐露するとすれば、古えの管鮑の交りと雖も破綻を生ぜずにはいなかったであろう。管鮑の交りは少時問わず、我我は皆多少にもせよ、我我の親密なる友人知己を憎悪し或は軽蔑している。が、憎悪も・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・徳を累するどころか、この家庭の破綻を処理した沼南の善後策は恐らく沼南の一生を通ずる美徳の最高発現であったろう。五 沼南のインコ夫人の極彩色は番町界隈や基督教界で誰知らぬものはなかった。羽子板の押絵が抜け出したようで余り目に立・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・今なら文部省に睨まれ教育界から顰蹙される頗る放胆な自由恋愛説が官学の中から鼓吹され、当の文部大臣の家庭に三角恋愛の破綻を生じた如き、当時の欧化熱は今どころじゃなかった。 先年侯井上が薨去した時、侯の憶い出咄として新聞紙面を賑わしたのはこ・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・お神さんは時田のシャツの破綻を繕っている。 夜食が済むと座敷を取り片付けるので母屋の方は騒いでいたが、それが済むと長屋の者や近所の者がそろそろ集まって来て、がやがやしゃべるのが聞こえる。日はとっぷり暮れたが月はまだ登らない、時田は燈火も・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・私はこの書を反復熟読し、それを指導原理として私の実践生活を規範しようとさえもしたが、しかし結局はそれも破綻して、私は倫理学以上の、「善悪を横に截る道」を求めて、宗教的方法の探求へと向かったものであった。 がここでいいたいのは、かような指・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・私自身の孤独の破綻が不愉快なのである。こうなって来ると、浪曼的完成も、自分で言い出して置きながら、十分あやしいものである。とたんに声あり、そのあやしさをも、ひっくるめて、これを浪曼的完成と称するのである。 私は、ディレッタントである。物・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・「懐疑説の破綻と来るね。ああ、よして呉れ。僕は掛合い万歳は好きでない」「君は自分の手塩にかけた作品を市場にさらしたあとの突き刺されるような悲しみを知らないようだ。お稲荷さまを拝んでしまったあとの空虚を知らない。君たちは、たったいま、・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・行動は、つねに破綻の形式を執る。かならず一方に於いて、間抜けている。完璧は、静止の形として、発見されることが多い。それとも、目にとまらぬ早さで走るか、そのいずれかである。沈黙している作家の美しさ、おそろしさも、また、そこに在るのであるが、私・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・それで健康を害し、或いは経済の破綻などもしばしばあって、家庭はいつも貧寒の趣きを呈しております。寝てからいろいろその改善を企図することもあるけれども、これはどうにも死ななきゃ直らないというような程度に迄なっているようです。 私も、もう三・・・ 太宰治 「わが半生を語る」
出典:青空文庫