・・・これは自然なものと不自然なものとの衝突から生じる破綻である。要するにわれわれが人形の声を知らぬことがこの秘密のかぎであるのではないか。 これに似たことは映画の発声漫画においてしばしば発見されるかと思う。たとえば黒い線だけで描いた漫画の犬・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・ また音響効果のほうでも、たとえば立ち回りの場で、すぐ眼前を通過する汽車の響きと、格闘者の群れが舗道の石をける靴音との合奏を聞かせたり、あるいはまた終巻でアルベールの愛の破綻と友情の危機を象徴するために、蓄音機の針をレコードの音溝の損所・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・従って見ていてたまらなく不快な破綻を感じる程度が剣劇に比して少ないように思う。それにしても自分の趣味から見るとやはりいったいに芝居をし過ぎる。そうして柄に合わない西洋人の表情をまね過ぎる。もう少しあたりまえの日本人のあたりまえの表情をするこ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ しかし、現在の日本のジャーナリズムがその魔術の呪縛に破綻を示してときどき醜いしっぽを露出するのはいわゆる科学記事の方面において往々に見受けられるのは注意すべき現象である。 もっとも二十年も昔と比べては今の新聞の科学記事は比較になら・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・なる地貌学的ないし生物学的の記述でなく、文学的作品と呼ばれ得る所以は、これらの対象中に作者の人格が滲潤している点にあるが、その作者から流出したものを盛るべき容器が科学的事実である限り、その容器に科学的破綻があっては工合が悪いのである。尤もそ・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・従ってこの間に錯雑して現われて来るいろいろな作者のそれぞれちがった個性はなんらの破綻を生じないのみか、かえってちょうどいろいろ違った音色をもつ楽器のそれぞれの音のような効果をもって読者の胸に響いて来るのである。 前者では一つの個性が分裂・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・主語的論理の破綻を示すものである。明晰にして判明なるものは、それ自身によって理解せられるもの、十全なる知識として、真にあるものでなければならない。神はそれ自身を表現するものである。我々の観念が神を原因とするかぎり明晰判明である、十全である。・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・それが破綻であるか、或いは互いに一層深まり落付き信じ合った愛の団欒か、互いの性格と運とによりましょが、いずれにせよ、行きつくところまで行きついてそこに新たな境地を開かせる本質が恋愛につきものなのです。 自然は、人間の恋愛を唯だ男性と・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・の流転する姿を、哲学の破綻そのものの姿としてみているでしょうか。 日本の歴史学は、まだ大塚史学の伝統をとりのぞいて正しく科学としての日本の歴史学に発展するところまでいっていません。『国のあゆみ』『民主主義』読本に対する監視と批判は、決し・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・その他で、女性の自我を主張し、情熱を主張していた田村俊子はその異色のある資質にかかわらず、多作と生活破綻から、アメリカへ去る前位であった。 こういう文学の雰囲気の中に素朴な姿であらわれた「貧しき人々の群」は、少女の書いたものらしく、ロマ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)」
出典:青空文庫