・・・……高く買っていたら破談にするだ、ね。何しろ、ここは一ツ、私に立替えさしてお置きなさい。……そらそら、はじめたはじめた、お株が出たぜえ。こんな事に済まぬも義理もあったものかね、ええ、君。」 と太く書生ぶって、「だから、気が済まないな・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・して世を渡るどちに、夜半に小舟浮かべて、あるは釣りをたれ、あるいは網を打ちて幸多かるも、このも海上を行き過ぐればたちまちに魚騒ぎ走りて、時を移すともその夜はまた幸なかりけり、高知ほとりの方言に、ものの破談になりたる事をジャンになりたりという・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・自分は頑として破談を主張したが、最後に、それならば、彼が女を迎えるまでの間、謹慎と後悔を表する証拠として、月々俸給のうちから十円ずつ自分の手もとへ送って、それを結婚費用の一端とするなら、この事件は内済にして勘弁してやろうと言いだした。重吉は・・・ 夏目漱石 「手紙」
出典:青空文庫