・・・を書いて、当時硯友社派の戯作者気質のつよい日本文学に、驚異をもたらした人であった。硯友社の文学はその頃でも「洋装をした元禄小説」と評されていたのだが、そういう戯文的小説のなかへ、二葉亭四迷はロシア文学の影響もあって非常に進歩した心理描写の小・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・しかしそのうまさというものも、内容の調子の低さにふさわしく紅葉時代硯友社の文脈を生きかえらせた物語体であり、天下の名作のようにいわれた谷崎潤一郎の「春琴抄」がひとしく句読点もない昔の物語風な文章の流麗さで持てはやされたことと思い合わせ、私は・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ ところが、二葉亭四迷の芸術によって示された文学の方向、影響は、上述の日本の事情によってそのままには発展させられず、硯友社尾崎紅葉等の作風に遮断されている。 紅葉が活動した時代、日本には既に憲法があり、国会が開かれており、官員さんの・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・抑々文壇の発生の初めは、当時の文学者たちが当時の社会の旧套、常套が彼等の人生探求の態度に加えようとする制約を反撥する心持の、同気相求むるところからであったろう。硯友社時代の師匠、その弟子という関係でかためられた流派的存在、対立が、各学校の文・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・湖月に宴会があって行って見ると、紅葉君はじめ、硯友社の人達が、客の中で最多数を占めていた。床の間に梅と水仙の生けてある頃の寒い夜が、もうだいぶ更けていて、紅葉君は火鉢の傍へ、肱枕をして寐てしまった。尤も紅葉君は折々狸寐入をする人であったから・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫