・・・……双方の御親属に向って、御縁女の純潔を更めて確証いたします。室内の方々も、願わくはこの令嬢のために保証にお立ちを願いたいのです。 余り唐突な狼藉ですから、何かその縁組について、私のために、意趣遺恨でもお受けになるような前事が有るかとお・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・ 全体主義哲学の認識論に於いて、すぐさま突き当る難関は、その認識確証の様式であろう。何に依って表示するか。言葉か。永遠にパンセは言葉にたよる他、仕方ないものなのか。音はどうか。アクセントはどうか。色彩はどうか。模様はどうか。身振りはどう・・・ 太宰治 「多頭蛇哲学」
・・・別に確証があっての事ではない。ただふっとそんな気がしただけの事で、もし間違ったら、彼におわびの仕様も無いほど失礼な質問をしてしまった事になる。 その夜は、所謂地方文化の粋を満喫した。 れいのあの、きれいな声をした年増の女中は、日が暮・・・ 太宰治 「母」
・・・国郡のごとき行政区画のできるはるかに前から、火山の名が存し、それが顕著な目標として国郡名に適用されたであろうとは思われるが、これも確証することはむつかしい。 山の名の起原についてはそれぞれいろいろの伝説があり、また北海道の山名などではい・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・と関係があるとの説もあるようであるが確証はないらしい。英語の autumn が「集む」と似ているのはおもしろい。これはラテンの autumnus から来たに相違ないが、このラテン語は augeo から来たとの説もある。この aug がアキと・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・考えてみるとはなはだ不可思議な心理ではあるが、畢竟は人間がその所信に対する確証を求めようとするまじめな欲求にほかならないかもしれない。 それはどうでもいいが、この場合迷惑至極なのは象である。腹が立っても、どうする事もできないところへ、こ・・・ 寺田寅彦 「解かれた象」
とんびに油揚をさらわれるということが実際にあるかどうか確証を知らないが、しかしこの鳥が高空から地上のねずみの死骸などを発見してまっしぐらに飛びおりるというのは事実らしい。 とんびの滑翔する高さは通例どのくらいであるか知・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
・・・なぜならば、婦人作家が、もう日本に独特な女心の人形ぶりをすることをやめたという事実は、それらの婦人作家にとっても、前進の道は人間の道、二十億の多数なる人民の道の上にしかないことを確証することであるから。このような行手の眺めは「わたしたちも歌・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・ 彼の肉体に植物の繁茂し始めた歴史の最初は、彼の雄図を確証した伊太利征伐のロジの戦の時である。彼の眼前で彼の率いた一兵卒が、弾丸に撃ち抜かれて顛倒した。彼はその銃を拾い上げると、先登を切って敵陣の中へ突入した。彼に続いて一大隊が、一聯隊・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・このような話の真実性は、感覚の特殊に鋭敏な高田としても確証の仕様もない、ただの噂の程度を正直に梶に伝えているだけであることは分っていた。しかし、戦局は全面的に日本の敗色に傾いている空襲直前の、新緑のころである。噂にしても、誰も明るい噂に餓え・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫