・・・ゆえに我が義塾においては、生徒の卒業に至るまでは、ただ学識を育して判断の明を研くの一方に力をつくし、業成り塾を去るの後は、行くところに任して、かつてその言行に干渉するなしといえども、つねにその軽率ならざるを祈り、論ずるときは大いに論じ、黙す・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・ 従兄サーシャの上にもう一人番頭がいるという程度のその靴店で、ゴーリキイの仕事というのは、毎朝サーシャより一時間早く起きて、先ず主人達、番頭、サーシャの靴を磨く。皆の服にブラッシをかけ、サモワールを沸かし、家じゅうの煖炉に薪を運んでおい・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・を考えることと、自己を磨くこととを、一様な理知の仕事の裡に混同してしまっていたのです。 これとても、その時の私は自覚しなかった。真個に一生失ってはならない感激と独りよがりとを、ごたごたにし、人生に対する尊い愛、期待と、空想、我ままを一緒・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・それを靴を磨く男が名告っている。ドイツにもフリイドリヒという奴僕はいる。しかしまさかアルミニウスという名は付けない。この土地はおさんにインゲボルクがいたり、小間使にエッダがいたりする。それがそういう立派な名を汚すわけでもない。 己はいつ・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫