・・・小切手を渡した係りの前へ二度ばかりも示威運動をしに行った。とうとうしまいに自分は係りに口を利いた。小切手は中途の係りがぼんやりしていたのだった。 出て正門前の方へゆく。多分行き倒れか転んで気絶をしたかした若い女の人を二人の巡査が左右から・・・ 梶井基次郎 「泥濘」
・・・百姓が、鍬や鎌をかついで列を作って示威運動をやったらどんなもんだろう。 彼は、宗保と後藤をさそい出した。三人で藤井先生をもさそいに行きかけた。「おや、お揃いで、どこへ行くんだい?」 下駄屋の前を通って、四ツ角を空の方へ折れたとこ・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・音楽的なもの、示威的なもの、嘲笑的なもの……等々。 夜になって、シーンと静まりかえっているとき、何処かの独房から、このくさめとせきが聞えてくる。その癖から、それが誰かすぐ分る。それを聞くと、この厚いコンクリートの壁を越えて、口で云えない・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・形で行く不破名古屋も這般のことたる国家問題に属すと異議なく連合策が行われ党派の色分けを言えば小春は赤お夏は萌黄の天鵞絨を鼻緒にしたる下駄の音荒々しく俊雄秋子が妻も籠れりわれも籠れる武蔵野へ一度にどっと示威運動の吶声座敷が座敷だけ秋子は先刻逃・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・その夜学というのが当時盛んであった政社の一つであったので、時々そういう社の示威運動のようなものが行なわれ、おおぜいで提灯をつけて夜の町を駆けまわり、また時々は南磧で繩奪い旗奪いの競技が行なわれた。ある時はある社の若者が申し合わせて一同頭をク・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ 彼らは不平があるとよく示威運動をやります。しかし政府はけっして干渉がましい事をしません。黙って放っておくのです。その代り示威運動をやる方でもちゃんと心得ていて、むやみに政府の迷惑になるような乱暴は働かないのです。近頃女権拡張論者と云っ・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・明治四十年頃に未熟であった日本の婦人解放論者たちが、まず自分たちの婦人の権利を示すシンボルのように考えて行ったそういう行動上の示威からはじまって、恋愛も結婚もすべての面で自分の思うとおりに生活していっていいのだという気持もある。ところがそう・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・これはみかたによっては、減刑運動を一つのファシズム示威に応用しようとかまえている人々への無取締り通告である。その背後にある思想というのは、五・一五事件、二・二六事件と、暴力で侵略戦争遂行の可能な軍部独裁にまで推進させてきた超国家主義、軍国主・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・というマークは持ち主の身上を街上にさらして或る意味では示威しているような結果にもなり、そこにはそこでの悲喜劇もあるだろう。その車から出た老人は店員が頭を下げている前を通って店内に消えた。堂々たる飾窓のなかにある女の身のまわり品の染直しものだ・・・ 宮本百合子 「新しい美をつくる心」
・・・ 小説の冒頭には、ワシントン百年祭当日、アメリカの共産党によって指導された民衆の、中国から手をひけ、ソヴェト同盟を守れ、とスローガンをかかげた大衆的示威運動の光景が描かれ、チャーリー中野もそれに参加したと紹介されている。ニューヨークの反・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
出典:青空文庫