・・・芭蕉の俳諧がわからなくても芭蕉の句のどの句がいい句であるという事を知り、またそれを引用し、また礼賛することもできるのと同様である。これと反対にまた世俗に有名ないわゆる大家がたまたま気まぐれに書き散らした途方もない寝言のようなものが、存外有名・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・このように、虐待は繁盛のホルモン、災難は生命の醸母であるとすれば、地震も結構、台風も歓迎、戦争も悪疫も礼賛に値するのかもしれない。 日本の国土などもこの点では相当恵まれているほうかもしれない。うまいぐあいに世界的に有名なタイフーンのいつ・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・して、これを驚嘆し礼賛し宣伝する日が来るかもしれない。そうすると、ちょうど荷物の包み紙になっていた反古同様の歌麿や広重が一躍高貴な美術品に変化したと同様の現象を呈するかもしれない。ただ困った事には、目で見ればわかる絵画とちがって、「国語」を・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・その人々が一生をつくして仕上げたいと思う生存の目標に向って進む自己を悦びにより、苦しみにより一層豊饒にし、賢くしてくれる恋愛、それから発足した範囲の広い愛の種々相に対して、私共は礼讚せずにはいられませんが、無限な愛の一分野と思われる恋愛ばか・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・ われわれはゴーリキー礼讚における狡猾な党派性の抹殺をあばかなければならぬ。プロレタリア作家としての実践の中にその基本とプロレタリアの党派性を確立しなければならない。〔一九三三年一月〕・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・古典のゆたかな奥深い森の火で私たちは特に今日その文学のいのちの泉をたっぷりと自分たちのうちへ汲みとるべき必要がある。礼讚するばかりでなく、自分のきょうの心をどう現してゆくべきかということをいつも一方に現実の課題として古典を学んでゆくときなの・・・ 宮本百合子 「古典からの新しい泉」
・・・の中に茶道礼讚として萌芽を表しているに止った。 かくて、作家は教養を求めんとして机にしばりつけられたのであったが、古典作品の鑑賞に於ては或る意味でのペダンティシズムが跳梁するばかりであるし、作品の現実はその関心の中心が益々技巧専一の職人・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・これを無条件に礼讚せざるものは、健全な日本文化人に非ずという強面をもって万葉文学、王朝文学、岡倉天心の業績などが押し出されたのであった。その旗頭としての日本ロマン派の人々の文章の特徴は、全く美文調、詠歎調であって、今日では保守な傾きの国文研・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
『文芸春秋』の新年号に、作家ばかりの座談会という記事がのせられている。河豚礼讚、文芸雑誌の今昔などというところから、次第に様々の話題へ展開しているこの記事は、特に最後の部分、二・二六と大震災当時の心境についてそれぞれの出席者・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・四月六日の『読売報知』には、ヒトラー、ムッソリニ礼讚の自著『世界の顔』についての、外人記者との対談で、「武士道は日本精神の精髄で、ナチス精神との間には多分の近似性がある」と、心ある全国民を戦慄させる断言をしている。ヨーロッパ、アメリカの政治・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
出典:青空文庫