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・・・ 寺は法華宗である。 祖師堂は典正なのが同一棟に別にあって、幽厳なる夫人の廟よりその御堂へ、細長い古畳が欄間の黒い虹を引いて続いている。……広い廊下は、霜のように冷うして、虚空蔵の森をうけて寂然としていた。 風すかしに細く開いた・・・
泉鏡花
「夫人利生記」
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・・・自分のその文章などは「末世の僧の祖師を売る者、妄言当死」と迄頭を垂れている。もしそのような芸術至上の帰依に満ちた芸心があるならば、佐藤氏も「モスクワ」が芸術品かそうでないか位は嗅ぎわけ得て然るべきであった。或る作家が未熟で、下手で書きそこな・・・
宮本百合子
「文芸時評」