・・・奥の大巌の中腹に、祠が立って、恭しく斎き祭った神像は、大深秘で、軽々しく拝まれない――だから、参った処で、その効はあるまい……と行くのを留めたそうな口吻であった。「ごく内々の事でがすがなす、明神様のお姿というのはなす。」 時に、勿体・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・恐ろしい風の強い日で空にはちぎれた雲が飛んでいるので、仰いで見ているとこの神像が空を駆けるように見えました。辻の広場には塵や紙切れが渦巻いていました。 広場に向かって Au canon という料理屋があって、軒の上に大砲の看板が載せてあ・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・これが、ついちょっと前に港頭に聳ゆる有名な「自由の神像」を拝して来た直後のことなのである。 カバンは夏目先生からの借りものであった。先生が洋行の際に持って行って帰った記念品で、上面にケー・ナツメと書いてあるのを、新調のズックのカヴァーで・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・ この国の人に、何故そんな色々の形の神像を作るかと聞くと、これは先祖からのしきたりだと答えた。吾々に先立った人がこういう風にして吾々に残した。それで吾々もこうして子孫に伝えるのだと云ったとある。 その話のすぐ下には、日本人の間に食人・・・ 寺田寅彦 「マルコポロから」
出典:青空文庫